機動戦士ガンダムAGE 第11話「ミンスリーの再会」

     ▼あらすじ


 ドン・ボヤージの旧友アルザック・バーミングスを頼ってコロニー・ミンスリーへやって来たディーヴァ。フリットはそこで、思いがけずユリン・ルシェルと再会する。ユリンもまたUEの攻撃により家族を失っていた事を知ったフリットは、この戦いが終わったらまた必ず会いに来ると約束する。
 一方、宇宙要塞アンバット攻略の作戦会議を進め、ディーヴァに戻ろうとする途中、グルーデックは連邦軍将校ストラー・グアバランに捕らえられてしまう。一時は挫折しかける一行だったが、フリットガンダムを使って連行途中のグルーデックを奪回、そのままディーヴァへの帰還を急ぐのだった。


      ▼見どころ


 前回、スパローの活躍など多少ガンダムの活躍を描いたわけですが、そうした回の次にはまた伏線ばら撒き回が来るのがAGEという作品です。
 それでも、連邦のジェノアス相手の戦闘シーンを入れたのは、ロボットアニメとしての最低限のノルマといったところ。


   ▽ユリン・ルシェル


 この回、物語の上で最大の出来事は、フリットがユリンと再会した事です。
 第3話、ノーラで別れて以来、しばらく顔を見せていなかったキャラですが、フリットにとっては(主にXラウンダーの戦闘能力の面で)時々回想される人物でした。
 それがこの回、再会してゆっくり会話する時間を持つことで、フリット個人にとって大事な人物へと急激に変わってきます。今回はXラウンダー的な感応シーンはなく、二人の交流が中心です。
 まず、ユリンがフリットと同じくUEに家族を殺されていたと知らされた事で、フリットの中に親近感が芽生え、次いで2週間にわたるミンスリーへの滞在でゆっくりとした時間を過ごす事になります。
 特に、ガンダムアイデンティティのかなりの部分をかけているらしいフリットにとって、ユリンの「またガンダムに乗せてくれる?」発言はかなりストライクだった様子です(軍事機密であるはずのガンダムに乗せる約束を軽々にしてしまうのはどうかと思いますが、まぁここでそれを言うのは野暮というものでしょうか)。
 『ガンダム00』の刹那君もそうでしたが、最近のガンダムの主人公と仲良くなりたかったら、とりあえずガンダムを褒めておくと良いようです(笑)。
 そんなこんなでフリットとユリンはすっかり打ち解け、未だかつて見た事もないような子供らしい笑顔まで見せるフリット君でした。



 彼のこんな笑顔を誰が予想できたであろうか……


 そんなわけで、2週間の間、アンバット攻略の会議をしつつ、その合間に交流を深めるフリットとユリン。



 彼のこんな笑顔を(以下略


 一方で、フリットのために一緒に命をかけると決意した、ぼくらのエミリー・アモンドは



 ディーヴァでお留守番です。ディケと。


 私は未見なのですが、これが『マクロス』シリーズなら、エミリーも同行してユリン相手に恋のさや当て、三角関係なんて展開だったのでしょうか。しかし世代交代とストーリーの本筋に関わる事以外の人間ドラマは極力簡略化されるAGE脚本においては、会うと面倒になりそうな、エミリーとユリンのようなキャラはほとんど会わずに終わるようです。この点も賛否両論あるところでしょう。
 そう、このミンスリー編も駆け足です。フリットとせっかく再会したユリンですが、この第11話のうちにもう別れの時がやってきます。


 ここでフリットは、「この戦いが終わったら会いに来る」と約束をしています。打倒UE以外にほとんど興味を示さなかったフリットらしからぬ発言です。
 逆を言えば、ここが最後のチャンスだったとも言えます。エミリーがフリットの戦いに反対しなくなった現在、もうフリットが戦いから離れる未来の可能性は、このユリンとの約束にしか残されていません。
 一方、バーミングスに「ユリンの家族になってあげてください」と発言した時、横にいたグルーデックはフリット、今は作戦の準備だ」とたしなめています。やはりグルーデックにとって、フリットが対UEの戦い以外の事に気を向けるのは好ましくない様子です。


 どうあれ、この辺の悲喜こもごもが、最終決戦に向けてどのように作用して来るのか。遠くない未来に視聴者にも示されることになります。



   ▽脚本の不自然さに関して


 全体的に、年季の入ったガンダムファンであればあるほど、あちこちの矛盾に気づいてしまう構成の『ガンダムAGE』ですが、特にこの第11話はツッコミ所の多い回ではないかと思います。


グルーデックの確保のためミンスリーに乗り込んできた連邦の将校ストラー・グアバランですが、初登場のタイミングはディーヴァクルーがバーミングス邸に到着するタイミングであり、そしてグアバランが部下から「グルーデックはディーヴァ内にはいない、バーミングスのもとに向かったようです」と報告を受けているのがCMに入る直前、少なくともバーミングスが初めてフリットと会話を交わすより前のタイミングです。



 チョコレートを齧るグアバランさん、アイキャッチ状態


 一方、グアバランが実際にジェノアスを連れてグルーデック確保に現れるのは一行がディーヴァに戻る途中、時系列的には少なくとも一週間から10日は過ぎていると思われます。
 バーミングスの名前も既に分かっていたというのに、彼らはこんな長期間、一体何をしていたのでしょうか?



 また、ディーヴァ居残り組のバルガスは、グルーデックの依頼でAGEシステムによるディーヴァの強化を試みるのですが。その結果、とんでもない大改造に着手することになります。
 その全容は13話で明らかになりますが、とんでもない大改造です。
 仮に艦の変形機構は元々備わっていたと考えても、連邦艦艇のビーム砲より強力なフォトンブラスターキャノンを新規に設置する仕事を、2週間で終わらせるというのはかなり無理があるように思えます。そのためのエネルギーを艦の動力から引っ張って来たりもするのでしょうし、規模的に艦の構造から変える必要が出てくるでしょう。
 で、この件について、エミリーの発案で不可能を可能にする男がやってくるわけですが。



 困った時のマッドーナ。


 ここでせめて、マッドーナ工房のメカニックを複数人(できれば数十人単位で)連れてきているような様子でもあれば、まだディーヴァ改造が期間内で終わった理由の説明として視聴者を納得させられもしたのでしょうが、そういった視聴者の納得を引き出す「小技」の部分でかゆい所に手が届かない、という印象がどうしてもAGEにはついて回ります。


 また、グアバランが「ディーヴァは監視下に置く」と先に発言しているのに、その監視下で本当にディーヴァの大改造が出来たのかどうか、グアバラン側としてもみすみすそれを見逃したというのがイマイチ腑に落ちなかったりします。
 そもそも、監視下に置くというのなら、艦に残っているディーヴァクルーを一時拘束したりは出来なかったのでしょうか?



 ……こういった事について、あえて好意的な解釈をする事は不可能ではありません。
 たとえば、バーミングスが大富豪だという説明がありますが、何らかの理由で連邦軍はバーミングスの機嫌を損ねるような行動がとれない事情があり、グルーデックたちがバーミングス邸から出てくるのを待ち伏せていた、とか。
 またグアバランたちがディーヴァを直接押さえてクルーを拘束したりしなかったのは、ミンスリーが連邦に属していない中立コロニーであり、万が一ディーヴァ側が抵抗して銃撃戦等のトラブルに発展した場合に非常に面倒になるから、とか。
 ディーヴァ改造については……えー、まぁ、その、ムクレドが超スーパー優秀だったからとか?(待て


 とはいえ、こういった相当好意的な解釈をしなければ矛盾が気になって見れない、というのでは、作品としての出来が雑だと判断されても仕方ない面があります。それだけ、視聴者側が余計な違和感や負担を感じながらでないと作品を見ることが出来ないという事でもあるからです。
 もし視聴者のこうした解釈を期待して、あえて細部の説明を端折っていたりしたなら、それは悪しき視聴者依存でしょう。


 現在のインターネット環境では、視聴者は互いに情報交換や意見表明、感想の言い合いなどしながらアニメを視聴する事がありふれた光景になっており、それに合わせてアニメ作品などの表現も変わってきました。
 物語の設定考察や展開予想なども、日々活発に行われています。作者側としても、こうした状況を織り込んだ上での作品構成を考えるというのは分かります。
 実際、AGEの設定については視聴者側で補完してほしい旨の発言も製作者側にあったそうです。
 しかし、緻密に整合性のある設定を作った上で作品内にはその一部だけを見せるというのと、そもそも一部しか作っていない状態で背後設定の整合性を視聴者に任せるというのでは、作品そのものの構築性に違いが出てしまうのは仕方がありません。
 初代ガンダムは、そして富野監督の作るガンダム作品は前者です。小説『機動戦士ガンダムF91』などを読むと、人類が宇宙にコロニーを作って生活するようになったことで、政治は、経済は、雇用は、住環境は、工業は、商業は、生活の細部はどうなっていくかについて富野監督が実に膨大な背後設定を持っていたことが知られます。
 そういった事に比べると、ガンダムAGEの世界観づくりや設定考証、脚本は、後者であったのだろうと思わざるを得ません。



 私は、アニメ『機動戦士ガンダムAGE』の、作品全体としての構想を高く評価していますし、それをかなり高度にやってのけたスタッフのガンダム作品への愛情にも好感を持っています。
 しかし、そうであればこそ、作品の脇を固める設定考証や、視聴者に余計な矛盾による混乱を起こさせないような配慮と手間などが足りない事について、甘い点をつける気にはなれません。前回の解説で書いたように、AGEが作中リアリズムを段階的に移行させていくというような狙いを持っていたとするなら尚のこと、他のガンダム作品の何倍も周到に動いていなければいけない部分であったはずです。


 以上、AGEという作品を解説していく上で、個人的に言わざるを得ない事を書きました。
 上記のような事は、並みのアニメ作品に対してであれば、別に言わずとも良い事です。食事の片手間にでも見て、「面白かったね」で済ますだけの作品であれば。
 しかし幸か不幸か、ガンダムブランドというのはその後何年も、何十年も参照され続ける作品群です。またAGE自身、作品の様々な場所に伏線や仕掛けを仕込んで、何度も視聴して味わう事を想定したような、力の入った作品になっています。
 であればこそ……という不満は、こうして解説を書き進めていてどうしても湧いてくるのでした。こうした、視聴者が疑問を持ちそうな部分をあらかじめ周到に押さえておくような用心深さがあれば、AGEという作品への世評ももう少し違ったものになったでしょう。


 まぁ要するに、悔しいのです。せっかくこんなに、野心的な構想が込められてるのに。こんなにガンダム大好きだろうスタッフたちが作品を作っていたのに、世間のガンダムファンからあんなに酷評されているというのが。




『機動戦士ガンダムAGE』各話解説目次