第11回 九段下・皇居周辺散歩


 なにげに前回の散歩から1年以上経ってしまいました。つい昨日の事のようなのですが、早いもので。
 というわけで、行く当てもなく東京を歩き回るお散歩企画、久しぶりにやってきました。


 今回はちょっと目論見があって、九段下スタートにしようと思ったのですが……なぜか乗った電車が通過電車だったため、



 神保町に来てしまった(この企画ではわりとよくある)。
 こちらは毎年10〜11月頃の古本まつりの際によく来ております。まぁこの日はショッピングが目当てではないので、さっさと目的の九段下方面へ歩き出し。



 神保町といえばこの風景。世界に冠たる古書店街です。
 なにげに、古本まつり以外の時期に来たことはあまりなく、いつも出店があった場所は普段こうなってるのか、みたいな妙な発見があったり。
 で、私は神保町に向かう時には、なぜか必ず九段下から歩いてエントリーする癖がありまして。ここから九段下までは歩き慣れた道であります。
 で、九段下。この駅から、



 こんな鳥居が見えるのですよ。
 実のところ、今回の散歩の目的のひとつが、ここに行ってみる事、だったのでした。


 で、その途中に、なんとも古色のある、良い感じの和洋折衷建築があったので、パシャリ。



 九段会館です。洋風の建物に和風の屋根が乗ってたりする、明治時代あたりによく作られた建築様式だそうな。私はそっち方面はあまり詳しくありませんが。
 なかなか味があって、眺めてても飽きません。


 で、問題の、例の場所。



 そう、さっきの鳥居は、靖国神社のものです。
 ご存知の通り、賛否両論さまざま、国内はもちろん海外からも注目されている場所であります。私の元にも日々いろんな情報が流れてきますが……まぁ、何はともあれ、何を思うにしても、まずは自分の目で見てみないと始まりません。


 境内の碑とかを眺めつつ、お参り。心に祈る事は……「とりあえずお疲れ様でした。あと、ちょっと写真撮らさせてもらいますね」(ぇ



 というわけで靖国神社
 元は幕末維新、戊辰戦争などの戦死者を祀った東京招魂社、との事で、境内には大村益次郎銅像なんかもありました。
 ちなみに鳥居付近では、明らかに韓国語で話してるおばちゃん二人組が記念撮影していたり、ブロンド髪のカップルが来てたり、意外に国際色豊かでした(笑)。
 一方で、車いす姿の老齢の男性が、写真撮ってたりもして。


 また、境内には



 能楽堂もあったりして。帰り際、ここでは弦楽器によるクラシック音楽の演奏会なんかもやってました。
 奥の庭園では結婚式っぽいこともしていたし、なかなか報道には乗らない靖国神社の別な顔を眺める事ができました。
 で、来た以上はやはり見て行こうと、



 遊就館にも立ち寄ってみたり。
 まぁ、なんだ、小生はちゃんと展示を見るために観覧料800円を払って、所蔵品の保存に貢献しましたわけなので、読者諸氏におかれましては少々批判的な事を書いても大目に見てね!(おい


 とりあえず、境内では実際に当時を知っているだろうほどの年配の方をけっこう見たのですが、遊就館ではそこまででもない、50〜60代くらいの年配男性をかなり見かけました。平日の日中だったからかも知れないけれど、若い人は相対的に少なかった印象。
 展示内容については、まぁ、いかにもという感じ。古代(というか神代)から近世までの歴史を年表と展示品でたどるブースがありましたが、神功皇后楠木正成水戸光圀肖像画付きで大きく扱われてたりして、「ですよねー」ってラインナップでした。源頼朝徳川家康肖像画つけて紹介されてるけど足利尊氏はガン無視されてたりな(笑)。


 ただ、けっこう面白いものも展示されてたりしまして。入口あたりに、



 江戸時代、大坂冬の陣で使用されたという大筒。鋳鉄か鍛鉄かで議論があったらしいのですが、近年の研究で鍛鉄製であることが判明したとのこと。この手の博物館にはけっこう行くのですが(以前、琵琶湖畔の長浜の博物館で鉄砲鍛冶職人国友一貫斎ゆかりの展示なんかも見ましたが)、この大砲は初見でした。全体の大きさに比して、口径は小さいんですね。
 後の方のブースで日露戦争に使用された大砲も見ましたが、そちらは同じくらいの大きさながら口径は広がってて、比較するとかなり技術の進歩があったのだなぁ、と実感できました。こういうのは面白い。


 あと個人的に面白かったのは、明治大正昭和の各天皇陛下のゆかりの品が飾られてるブースがあったのですが、向かって右に大正天皇、左に昭和天皇で、中央に一番大きく明治天皇が扱われてるんですな。ははぁそういう並びになるのか、って感じ。


 で、否応なくメインになるであろう、日清戦争から太平洋戦争終結までの流れを追う各ブース。後々の散歩もあるので流し見ただけでしたが……うん、まぁやっぱり、太平洋戦争なんかに関しては私の知らない事件もたくさんあったんだな、という意味では、いろいろと感心しました。やはり私は、あの時代のことをほとんど知らない。以前も書きましたが、私の高校時代の日本史教師は、のらりくらりと授業を間延びさせて、太平洋戦争に行く前に年度を終えてしまったりしてたのです。たしかにデリケートで、言及の難しい時代ではあるけれど、だからって触れずに済ますのも……という不満もあり、なかなか難しく。
 もちろん、上記足利尊氏を見るごとく、遊就館のブースが語っていない歴史の側面もあるわけで、だからここだけで判断するのも慎重にはなりますが。しかし、「私はあの時代のことを知らない」という実感を与えてくれたという意味では、けっこう有意義でした。
 ……と、まぁ、コメント欄が炎上しない程度で書ける感想としては、こんなところです(笑)。


 以前、うちのブログでガンダムの富野監督のインタビューを引用したりしましたが、戦争において個人が戦地に行く、そこで個人が体制に否応なく関わってるのは仕方ないことで、じゃあ戦地に「行けって言った奴」はどうだったのか、と問う回路が日本には乏しい、という旨の事を言っていたわけですけれども。
 この遊就館の展示でも、戦地、いわば現場で頑張った人たちの活躍や悲壮や、ゆかりの品なんかはいっぱい飾ってあって、そういう人はそりゃ凄いし大したもんだと思うんだけど、一方で戦争を指揮した人たちの顔や動向って相対的にすごく少ない。
 でもさ、現場で個々の兵士が一生懸命頑張ってたってことと、あの戦争全体がどうだったかって事はやっぱり別だよね、とは思うわけです。むしろあの戦争を指揮した人たちが、戦地の兵士たちの一生懸命に報いられるような戦争をちゃんとやったの? っていう問いかけが、希薄な気がするんだよね。


 まぁでも、貴重なものが色々見られるので、なんだかんだで観覧料分は楽しめる展示だと思いました。艦これプレイヤー的には、酸素魚雷の実物が見られたりもするし(笑)。まぁ隣に例の回天(北上さんや伊168が「アレは積みたくないなぁ」って言ってた例のアレ)もあったりするので、そういう関心で来るとあまり落ち着いて見られないかもですが。
 ていうか、航空機による特攻と、回天(人間魚雷)は知ってましたが、他にも『ブラックラグーン』に出て来たような特攻用高速ボートとか、特攻用潜水艦とか、特攻兵器っていろいろバリエーションあるのな。
 順路通りに歩いていくと、実物兵器ブースでいきなり回天が船首こちらに向けた状態でお出迎えしてくれている、というのは展示の構成としてどうなのか(苦笑


 まぁ、そんなところで、ざっと展示品を眺め終えて靖国神社を出ました。ここからはいつものそぞろ歩き。
 何はともあれランチタイム、という事で、『孤独のグルメ』を気取ってたまたま見かけたフランス料理店に入ってみたのですが……うん、いやね。美味しかったんだけども……アウェイ感がすごかった(笑)。
 やっぱりアレですね、オシャレ系の店では、孤独のグルメ感があまり出ないというか……うーん、難しい。我が心のヒーロー井之頭五郎への道は長く険しいようです。


 首をひねりつつさらに歩き始めまして。



 この辺も坂の多いところです。上ったり下りたりの起伏を超えていきますと、



 半蔵門近くのお堀へ出ました。緑とビル群のコントラストが、この周囲独特の風景で。
 東京都内を散歩で巡るという企画をやっているなら、いつかは皇居周辺にも来てみないといかんだろうな、と前々から思っていましたが、ついに叶いました。そして、かつて江戸城のお堀だった景観に、東京都内でも有数の先進的なビル群が重なって、特に景観の面白い所でもあります。
 ここはやはり、お堀に沿って歩いてみるべきでありましょう。



 こんな感じの景色が随所に見られます。



 季節は秋口にて、ところどころに彼岸花が見られました。花の写真なんて普段はあまり撮らないんですが、これは思わず一枚。


 で、途中で北の丸公園の方向へ。せっかくだから日本武道館とかも見たい。



 途中、高速道路の料金所を間近から撮影できる場所があったので気まぐれに。
 前も書きましたが、通常なら車移動でないと関わらない施設に徒歩で遭遇すると、ちょっとテンション上がるのです。



 そして、東京国立近代美術館の工芸館が見事なレンガ建築だったので、これもパシャリ。



 旧近衛師団司令部だったそうです。
 こういう明治時代くらいの、古色のある建物がちらほら見つかるのも、この周辺を歩く楽しみの一つですね。



 さらに公園内にて、青紫色の鮮やかな実をつけた木があったり。
 例によって、ぱっと名前が特定できればカッコいいのだけど、あいにく分からないんだなぁ(笑)。
 で、ちょっと歩いて日本武道館ですが、



 ええ、行ったんですけどね。ご覧の通りちゃんと正面まで。
 ただその、たまたまこの日やってたイベントが、ですね……


 よりによってこれだったんスよ……(笑)。
 いやまぁ別に、このイベントに恨みや悪意があるわけじゃねぇんですけど、さすがにこれの垂れ幕とか写すの、なんかヤだなと思って……早々に退散したのでした。
 どうしてこんなことに……(笑)。



 で、その近くに田安門。国の重要文化財とのこと。
 こういうのが残ってると、ああ確かにここが元城郭だったんだな、という実感が湧きます。門を入ってすぐのところは、攻め込まれた際の迎撃スペースなので真っ直ぐ城にはつながらずにカギ型に曲がってるんですが。そのおかげで、開いた城門から奥の石垣が見えるんですよね。個人的に、その門から覗いてる石垣、という風景が好きだったり。おそらく上手く伝わらないと思いますが(笑)。


 で、ここからさらにお堀に沿って進みます。



 江戸時代の石垣、昭和に作られた高速道路、そして平成の現在建設中の新しい建物。
 過去にも書きましたが、こうやって複数の時代の層が重なって見える、こういう情景がまた無類に好きなのですよ。東京を歩く一番の魅力は、こういう複層的な風景として街の歴史が見えてくることだと思うわけです。



 さっきの高速の高架をそばから。なんと江戸城の石垣の上に高架道路が乗っかっています(笑)。
 首都高速については以前も書きましたが東京オリンピックに合わせて高速を整備する際、いちいち土地の権利者と交渉していたのではとても時間的に間に合わないので、所有者との交渉無しに利用できる川の上にドカンと通してしまった、という事だそうで。
 つまり、こういう乱暴なというか、ほとんど暴力的な首都高速道路高架の風景も、良くも悪くも戦後の急速な成長の、いわば足跡なわけでした。
 そういう都市景観的な視点で眺めてもいたのですが……しかし同時に、なんというか、端的に目の前の風景に見入ってしまう感覚もちょっとあって。



 写真では多分伝わらないと思うんですけれども、端的に「きれいだな」と思ったんですよね。このお堀と、東京の高層ビル街とが重なる風景のことを。折しも夕刻が近づいて来てて、ビルに反射した夕焼けの光が水面にちらちら散っていたりして。
 これまで十回以上、東京のあちこちを歩いてきましたけど、この街をシンプルに「きれいだな」と思ったのは多分初めてだったような気がします。ほんの数分でしたけど、なかなか良い時間でした。
 まあ、直後に右翼街宣車みたいなのに遭遇して、いっぺんにその感慨を吹き飛ばされたりもしつつw



 それにしても、こうして歩いてみると、実に工事中・建設中の建物が多い。
 やはりアレですかね、東京オリンピックも決まったし、再開発も加速しているのかもしれません。


 大手町にかかった辺りで、皇居お堀から離れて街中へ入って行きました。ちょうど、以前日本橋を見に行った時に通った、東京駅や日本橋のデパート街なんかを横切る方向。



 千代田区のこの辺は、本当に見上げると首が痛くなる街です(笑)。



 丸の内オアゾの、ビルとビルの間。
 壮麗で高層なビルが建てば建つほど、こういうビルとビルの間の谷間も深くなっていくのが、歩いているとすごく印象に残ります。この東京彷徨の記事でも何度か書いていますが、街には表と裏があるんだなぁ、というのが、都心部を歩いていて特に感じる事です。
 で、東京駅といえば、前述の日本橋散歩の際に一度来ていました。もっとも当時は、駅舎の改修工事中で。
 まるでつい昨日の事のように感じているのですが、ブログの投稿日付を見たら2009年、なんと5年も前なんですね……。信じられませぬ(笑)。なるほど駅の改修工事も終わるわけだ。



 というわけで東京駅を改めて。急いで撮ったので斜めになってしまいましたが(ぉ



 他にもこの周辺には、こんな感じに年季の入った塀があったりして。
 この他、東京駅、日本橋駅を横目に歩いていきます。結局5年前は、橋は見たけど日本橋の繁華街は見ないで通り過ぎちゃったんですよね。今回も横切っただけ。つくづく「街の表」にはあまり関心を示さない当企画であります。
 ここから、いつも通りに裏道に入って住宅街や、町工場なんかがちらほら見える裏道を歩いたりしておりました。



 消防署の裏側かな。消防士さんたちの生活感が見られる一枚。



 実はこの日、千鳥ヶ淵あたりでも消防署の横を通り抜けたんですが、消防署には独自のガソリン給油機があるんですねぇ。今回の散歩で初めて知りました。こういうプチ発見が楽しい。



 そして都心部でも、ちょっと裏道に入るとこういう古びた家が見つかるのが、東京。


 ここから、茅場町周辺をぐるぐると歩き回り、



 水門を見つけたのでいそいそと撮影したり。
 さらに裏道に迷い込んで、



 こんな高架道路の写真を撮ったり。三段重ねの高架なんて、こんなのが見られるのも東京っぽさだと思っています。



 やがて、隅田川に出てみたり。
 高層住宅が林立するこの景色は、何回見ても異様な感じがします。
 で、この辺りで帰宅しようと思い始めたのですが、周辺に駅が見当たらず、仕方ないのでもう一回隅田川を渡って、浜町駅でようやく散歩の終着点としました。



 というわけでこの日のラストショット。地下鉄浜町駅前の緑道。
 街中にこんな小道があるなんて素敵ね。


 結局、この日歩いた道はこの通り
 10km前後は標準的なこの企画の移動距離ですね。何気に、九段下駅からぐるっと回ってもう一回九段下に戻って来てたり、今回はなんか同じところをぐるぐる回った散歩でもありました(笑)。
 また、過去この企画で歩いたルートともけっこう接近してました。回数重ねて行けば、まぁそういう事もありますね。なんだかんだで千代田区中央区あたりは、見る物も多いし。



 以前、赤坂周辺を散歩した時に、乃木神社に迷い込んで、自分の近代史への理解の乏しさに愕然とした事がありましたが、あれから5年たってもやはり、自分の中の近代史関連の知見は貧弱なままです。
 ただ、自分の貧弱さを自覚すればこそ、安直に結論を出さない事が大事であるように思っています。この日靖国神社に出向いたのも、結論を出す前に自分の目で見ておきたかったからでした。
 もしかして死ぬまで結論なんて出ないかも知れないのだけれど、私個人はそれでも良い、というくらいのつもり。こうやって散歩をしているのも同じです。結論を出してしまったら、以降目に入ってくるものは、その結論によってバイアスのかかった見え方しかしないという、特にインターネットが普及して以降、そういう危機感が私の中で強いのでした。
 だから、これからも自分の足で歩いて、自分の目でまず見ようと。稚拙ながら、そんな事を思いつつ。


 午後以降は、天気も良くて、非常に気分の良い散歩でした。やっぱり印象に残ったのは、江戸城の石垣の上に首都高速の高架が乗っかってる一枚かな。東京と言う街の複層性を、良くも悪くも表してる一枚だと思います。ガイドブック通りに名所旧跡を巡ってるだけでは実感できない、乱暴なくらいの「歴史の重なり」が見えて、皇居周辺は見所が多いなと感じました。
 まだ、明治神宮とか、あの周辺で行ってないところも多いし、またいずれ機会があれば行ってみたいと思います。


 と、今回はそんなところで。