ギルガメシュ叙事詩


ギルガメシュ叙事詩 (ちくま学芸文庫)

ギルガメシュ叙事詩 (ちくま学芸文庫)


 古典読みキャンペーン継続中。これが文庫で読める幸福を噛みしめつつ。
 元が粘土板に刻まれたシロモノで、話に欠落も多く、特にvs天の牛戦とか良いところで本文が欠落しているのでもどかしい部分もありましたが、Twitterのフォロワーさんによると、その欠落部分がかえって想像をかきたてる部分もあるそうで、実に奥深いw


 とりあえずですね、まぁ読む前の脳内イメージは『Fate』シリーズに出てくる金ピカ慢心王なわけですよ(笑)。これはもう、あのインパクト大きすぎるんでしょうがない。
 ところが読んでみると、意外に英雄ギルガメシュの心情の揺れ動きの描写が細やかで、いつの間にか“あの”イメージから遠ざかっておりました。尊大に振る舞う事もあるけど、強敵を前に戦いたり、親友の死を哀惜したり、すごく表情豊かな英雄だった。特にエンキドゥとの友情描写が熱い。
イリアス』読んだ時も思ったけど、古代の叙事詩って時々ハッとするくらいリアルで写実的な心情描写が織り込んであったりするんですよね。フンババを退治しに行くというギルガメシュに、エンキドゥがフンババの恐ろしさを語って止めようとする。けれどギルガメシュの決意が固いのを見てエンキドゥがとうとう賛成に回るんですが、こんどは国の長老たちがまったく同じ言葉でフンババの恐ろしさを説いて止めようとし始めて、それを聞いたギルガメシュがエンキドゥと顔を見合わせて、思わず笑うんですよ。そこで顔を見合わせて笑う二人の情感がすごい良かった。


 一方、二人の敵として出てくる存在もいろいろ想像をかきたてられる面白さがありました。森の守護神フンババは、倒された後に樹木が多量の木材として運ばれたという記述がある事から、文明の開発に対抗する自然側の守り神っていう、まるで『もののけ姫』みたいな近代的なテーマにも読めてしまうような存在で。もちろん今日的なエコロジーのテーマをそのまま投影するわけにはいきませんが、しかし珍しい存在と感じました。
 その辺も含めて、なかなか刺激的な読書でありました。


 有名だけど読んだことなかった作品をまた一つ制覇したわけですが。しかしなんですね、終わる気が全然しませんね、これw