シャーロック・ホームズの思い出

 

  

 例の有名なモリアーティ教授が登場する巻。そしてホームズシリーズの終わる終わる詐欺の始まり(本人は本当に終えたかったんだろうから詐欺呼ばわりはひどい)。

 

 ホームズの過去エピソードがあったり、話のバラエティも豊かでいろいろ楽しめた巻。「白銀号事件」がけっこう好きで、まぁミステリから長らく離れていたのでそう感じるかもですけど、真相読んで「やられたな」となったり。あと、このころからホームズの依頼人への意地悪具合がちょっと出てくる気もする(笑)。

 個人的に、ホームズの推理もですけど、彼が現場に出向いて実地検分する時の、「ここではもうこれ以上必要な情報は得られない」という見切りがすごいよなぁと読みながら思ったのでした。単に必要そうな情報をかき集めてるのではなく、真相を見抜くために必要な情報を過不足なく正確に見切ってるわけですよな。

 

 で、問題のモリアーティ。

 確かにあまりにも唐突、かつ謎めいていて、状況的に腑に落ちない点も多く、これでホームズが退場してしまうというのは当時リアルタイムで読んでたら納得できなかったろうなという気もしますが。しかし逆に、不自然な成り行きと異様に巨大で謎の多い存在感ゆえに、いろいろ想像で補ってみたくなる感じも非常に強く、なるほどモリアーティの設定を膨らませた二次創作的な作品が多いというのも納得でありました。

 まぁ、なぜモリアーティがわざわざホームズの前に身を晒して直接対決をするなんてらしくない行動をとったのかについては、私の中では「逆襲のシャアでシャアがアムロサイコフレームを提供したのと同じような心境だったのかな」という辺りでなんとなく落ち着いているわけですが……(笑)。

 後に『恐怖の谷』で、ホームズに対してわざわざ「おやおやぁ?」みたいな不手際を煽るようなメッセージを送ったりしているところを見るに、モリアーティ的にも対等に自分と渡り合ってくるホームズに対してライバル心という名の親近感みたいなのを感じていたというか、強敵と書いて友と読むような例のあの感情に捕らわれていてもおかしくないのかなとか、まぁそんな想像をたくましくしたくなるわけでした。

 

 で、まぁ、おそらくホームズファンにとっても世界のエンタメの歴史にとっても幸いなことに、ホームズシリーズはこれで終わらずなおも続きが書かれたわけでした。そちらももちろん読んだわけでございます。