静寂と沈黙の歴史

 

静寂と沈黙の歴史

静寂と沈黙の歴史

 

 

 やんごとない事情で人文書の新刊も読んでいる。これが初アラン・コルバンというのは多分あんまり良い出会い方ではない。

 

 冒頭で示唆されている通り、静寂や沈黙は明示的な形で歴史に刻まれようがないわけなので、勢い文学その他、歴史史料以外を援用しつつ埋めていくしかないという話で、非常に文学書その他からの引用が多い本でありました。

 

 うーん、著者の視野の広さに感心したりもしたけれど、やむを得ないとはいえちょっとぼんやりした印象の読書になったことは否めなかった。エッセイとしては十二分に面白いので、そういう読み方の方がすんなり評価できるかも。

 あと、やはり著者の言葉を追うだけでなく、関連した自分の実体験を想起しながら、膨らませつつ読むのが良いんだろうなという感想でした。私自身が、旅先の森の中で感じた静寂とか、墓地や宗教的な聖域で感じた静寂とか、飲み会の席で上司と気まずい沈黙が出来てしまった時のこととか……(笑)。そういうのを思い出して本書の記述が描こうとしているテーマを逐一膨らませていくのが大事なのだろうなと。ある種の本は、そうして膨らませる読み方をする事で真価を発揮したりするのだ。

 

 一部、騒音規制の史上の始まりみたいな歴史書らしい記述もあって、そこはストレートに楽しかったりしました。まぁでも、この本でアラン・コルバンの手管を知ったことには多分ならんので、いつか別な本も読めたらいいけど……その機会が訪れるかなぁ……。