ウルトラマンと戦後サブカルチャーの風景

 

ウルトラマンと戦後サブカルチャーの風景

ウルトラマンと戦後サブカルチャーの風景

 

 

 これはたいへんな労作でした。すごい密度。

 

 ゴジラこのかた、戦後日本に突如現れた「怪獣」という表現モチーフがあるわけですが、あまりにもヘンテコで、それ以前の日本文化の文脈と容易につながらないのですよな。ゆえに、長らく文化史的に位置づける仕事がそんなに出て来なかったというか。まして、怪獣と戦う銀色の巨人となるとますます困難で、そこに日本の安全保障環境を読みこむような俗な解釈はあったものの、本格的な分析というのはやはり少なかったのではないかと思います。まぁ私の少ない読書量から判断した限りでですが。

 

 で、本作はそこに真っ向から斬り込むわけですよ。そこで様々なジャンルからアプローチしていくわけですけど、とにかく引き出しが多い。

 戦前国策映画の系譜、戦後ドキュメンタリーの動向、現代建築から、日本の郊外の成立からなどなどとにかく多方面から分析の手を伸ばし、しかもそれぞれの話題においてしっかりと個別の作品名・作品論まで押さえて着実に語っていく。こんな堅実な仕事は早々お目にかかれないというレベルでの細密かつ大胆な議論で、ウルトラマンのシリーズを読み解いていくわけですね。すごいエキサイティングで、ウルトラシリーズに文化史的な関心があるなら絶対楽しめると思います。マジで。

 

 また、比較的世評が高く作り手の背景・メッセージも明確で取りあげやすい初代マンやセブンだけでなく、子供向け路線に切り替わって以降のエース、タロウとかにもウエイト置いて分析していく辺りも好感度高かったです。

 

 興味深い指摘は山ほどあったのですが、たとえばウルトラマンと現代建築の関係性やテーマ的なつながり、なんていうのも言われてみればと思わず膝を打つ指摘でした。そういえばウルトラシリーズ劇中に、現代建築っぽい建物の登場頻度高かった気がする。

 

 とかく2019年上半期に読んだ中では特にオススメできる本のひとつです。

 単純にウルトラマンのシリーズを跡付ける仕事としても抜群に良いけれど、このレベルまで来るとそれだけでなく、現在のアニメや漫画、特撮、ライトノベルなど、一見既存の日本文芸・文化史と切れてしまっているように見えるエンタテインメントの流れにも、これほどの目配りをするなら確かにきちんとつながりのある形で一枚絵を描くことがきっと出来るのだ、という自信がつくというレベルだと思います。

 誰かがTwitterで指摘していたけれど、現在のライトノベルや、PIXIVで連日大量に投稿されているイラストなどのポップカルチャーが、明治の近代文学日本画の文化的な蓄積と一見、まったく切れているように見える問題というのがあるわけですよ。それが現在のポップカルチャーを不当に低く評価させてしまう原因の一つでもあり、一つには現在進行形の文化にそれ以前の日本文化の蓄積を活かすルートが少なくなってしまう弊害でもあって。そこはいつかつないでいく仕事をしていかねばならないんじゃないかなと思ったりするわけです。このブログで取り上げた中だと、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』で「サマー・オブ・ラブ」とボーカロイドのムーブメントをつなぐ言説というのがあったりしましたが、やはりそれだけではまだ足りないというか。

 そう考えた時に、本書の広汎な目配りと論証は、もっと高精度にそういう既存文化との接続が可能なのではないかという希望を示しえると思うのですよね。

 是非ひろく読まれるべき本だと思います。