機動戦士ガンダムAGE 第2話「AGEの力」

     ▼あらすじ


 UEの攻撃によって、コロニー・ノーラはねじれ崩壊を始めていた。ブルーザー司令は円筒型コロニーの中央に位置するコロニーコアに避難民を誘導し、新造戦艦ディーヴァで引き抜く作戦を実行に移す。
 一方、ディーヴァに向かう途中でフリットはユリンと名乗る少女に出会う。コロニー外壁の崩壊に巻き込まれたガンダムは宇宙に出た所でUEと交戦。既存のビームスプレーガンでは歯が立たない中、AGEシステムが作り上げた新たな武器、ドッズライフルを受け取る事で、無事撃破することができたのだった。



      ▼見どころ



 ガンダムAGE世界のコロニーは、宇宙世紀でもおなじみの、いわゆるシリンダー型と呼ばれる形のものです。
 そして、その中央部にある農業ブロックが独立した機構を有しているため、そこに住民を避難させて、戦艦で引っこ抜くという大作戦が決行される事になりました。全長数十キロに及ぶ巨大構築物を牽引するわけで、ガンダムというよりどこぞの国際救助隊の任務、といった感じです。




 ディーヴァとの大きさの比率で、事の重大さがわかる。

 実際問題として、一般市民の救助のためにこれだけの大作戦が敢行されるというのは、歴代ガンダムでもほぼ例がないんじゃないでしょうか。敵の毒ガス作戦阻止とか、落下する隕石排除とかはあるんですけども、「避難・救助のため」にこれだけ大規模な事が起こるというのは、何気に珍しい。かろうじて『ガンダム00』のファーストシーズン第5話にそういったエピソードがあるくらいでしょうか。


 宇宙空間という過酷な環境にコロニーを作って住んでいる以上、こうしたトラブルからの救助ドラマというのは有り得る話なのですが、ガンダムは何だかんだでロボットバトルものなので、存外今までこういう所が強調された事は少なかったように思います。
 あるいは、昨年の震災に対する、ガンダムからの最初のアンサーだったかも知れません。ブルーザー司令の決断や、ディーヴァのブリッジ到着直後におけるミレースの現場判断など、ガンダム作品とは思えないくらい、「組織の人間」がきちんと機能しているところが描かれています。
 もちろん、ディーヴァの本来の艦長であるディアン・フォンロイドのように、こういう状況に全く対応しない人物も出てくるわけですが。
 この辺り、歴代ガンダムの組織とも、また現実とも、いろいろ比較してみると面白い部分です。特に、宇宙世紀ガンダムにおいて地球連邦軍が「腐敗の代名詞」のように描かれる一方、ガンダムAGEの連邦軍は「やる時はやる」所を見せたりもする、多面的な顔を持っているのが興味深い所だったりします。
 後々の話になりますが、アセム編において連邦軍は、主人公が所属する軍としては歴代最高クラスの強さを見せつけてくれたりもするので、お楽しみに(笑)。



 そしてもう一つ。先の話ついでに言及しておきますと、このシーン。



「もし敵の目的が、このコロニーの破壊なら……エネルギープラントを攻撃すれば、それで済むはず。なのに何故……?」


 劇中、ミレースが内心で疑問を提示して、この場はそれっきりなのですが。
 この問いには、きちんと答えが用意されています。
 ただし、この伏線が回収されるのは30話以上先です(!)。本放送で言えば半年以上先だったという事になります。そんな伏線回収覚えてられるのか、という話でもあるのですが、しかし逆を言えば、それだけシリーズ全体に渡るしっかりした構成が作られていた事を意味します。
 テレビアニメも視聴者の反応を見て路線変更その他が絶えない業界であり、ガンダムシリーズを眺めてみても、某「宇宙くじら」のように回収されなかった伏線というのもあったりするわけで。その点、比較的最後まで「当初の構想」を完遂したらしい事は、AGEの魅力の一つに数えて良いように思いますが……まぁまだ序盤ですので、シリーズ全体の評価はいずれゆっくりと。



 ……さて、ここまでブルーザー司令とディーヴァクルーを中心に動向を見てきました。これだけ見ると、わりとシリアスなSFドラマのようにも見えるのですが。しかし一方で、第1話で確認した「まるでガンダム以前のロボットアニメのような」ゆるいリアリズムを感じさせるパートが間に頻繁に挟まるため、視聴者は混乱させられる事になります。



 勝手にディーヴァに乗り込むエミリーたちと、それを見送るバルガス。
 結局バルガスはエミリーたちが戦艦に入り込むのを見送ったあげく、「やれやれ」とか言うわけですが、いや、「やれやれ」で済まして良いのかよ、と。
 そもそも、バルガスがどういう身分でディーヴァに乗り込めているのか、特に説明がありません。軍人なのかそうでないのかも判然としません。そのくせ、以降フリット編を通じて、ディーヴァ内で好き勝手できていたりします。こんなナリして実は技術士官だとか言われても、それもどうかと思ってしまいますが……。



 一方、ガンダムをディーヴァへ積み込むべく移動中のフリットは、ここで逃げ遅れた少女ユリンと出会い、ガンダムコクピットでしばし一緒に過ごす事になります。
 そしてこのユリンが、まるで宇宙世紀の「ニュータイプ」を思わせるような、空間把握や未来予知的な能力を見せるのでした。
 コロニー最外周部分の外壁にて、行く道を言い当て、さらにふさがった道を前に秒読みをします。



「大丈夫、このまま……4、3、2、1、ゼロ!」
 この直後、外壁に爆発が発生、ガンダムは出来た穴から宇宙へ脱出することに成功します。


 ここで秒読みを入れるのは、ユリンに宇宙世紀ニュータイプに相当する能力がある事を、短時間で視聴者に予感してもらう効果があります。
 ガンダム歴の長い方なら、無意識にこのシーンを思い出した人もいるのではないでしょうか。



「ねぇアムロ、あと、5!」「4」「3」「2」「1」「「「ゼローっ!」」」


 初代ガンダムのラストを飾る印象深いシーンです。シチュエーションは違いますが、わずかでも連想を働かせてくれれば、それで「ユリンにニュータイプ的な能力がある」というような事をくどくど説明する必要がなくなります。


 また、上記シーンと関連づけなくても、「秒読み」は視聴者にユリンの能力を理解させるのに、おそらく最短の演出だろうと思います。外壁部の構造が分かるだけでは、何らかの事情で事前に知っていた可能性なども微妙に残るため視聴者も断定ができませんが、「5秒後に爆発が起こる」という未来予知であれば、これはNT的な超能力があるんだと解釈を断定できます。


 ガンダムAGEは4クールに3世代の物語を詰め込んだ関係で、ほぼ慢性的に説明不足に陥っているという作品です。そのため、こうした細かな演出やセリフ選びに、相当な高密度で情報が集約されています。セリフで長々と説明する暇がないからです。
 なので、私のような暇人が気づいたことを列挙していくだけでも、作品の見え方が変わってくるかなと期待して記事を書いているわけですが……。



 それはそれとして、この直後、フリットたちの乗るガンダムはUEと遭遇、戦闘になります。
 しかし手持ちのビームスプレーガンでは敵の装甲に有効打が与えられません。そこでいよいよ、AGEビルダーの登場となります。



 入力された情報をもとに、AGEシステムが最適な武器を即座に設計、ビルダー内でインゴットから切り出して組み立てるそうです。
 しかしこれは、さすがに相当ファンタジーな設定と言わざるを得ないところでしょう。ただのハリボテならこの仕組みで作れるかも知れませんが……。
 まして出来上がったドッズライフルが「ビームをドリル状に回転させて貫通力を増している」などと説明されれば、なおのことです。


 リアリズムで言えば、このAGEビルダーの一連の説明は、古いタツノコアニメ、ヤッターマンとかその辺と大差ないレベルでしょう。ほとんど「今週のビックリドッキリメカ」の世界です。
 コロニーコアによる住民救助作戦のディティールと比較して、リアリズムに落差があり、かなりちぐはぐに見えます。こうした部分を嫌気して視聴をやめてしまった人も少なくないと思われます。それはそれであり得る話です。



 正直なところ、ガンダムAGEを全話見終わった後にフリット編の序盤を思い返した時、こういった所に一番の構成上の不備を感じます。ここで、現実離れした「AGEビルダー」のトンデモ設定が入る事は、シリーズ全体のねらいを考えれば意味があるのですが、結果的に多くの視聴者が入口で引き返す結果を呼び込んでしまったことも事実だからです。


 今、新たにこの作品を見始める人のために、先にその「ねらい」を簡単に指摘しておいた方が良いでしょう。
 ガンダムAGEは、三世代の物語です。そして、物語もまた、ガンダム登場以前のロボットアニメから、ガンダム登場を経て、ガンダムシリーズの歴史を辿りながら進んでいく――この作品の構想は、恐らくそういうものだったと思われます。
 フリット編はしたがって、ガンダムからかけ離れた作中リアリズムが、「徐々にガンダムになっていく」過程が描かれていくパートだ、とお考えください。
 それは同時に、今は「リアルロボット」の祖と見られている初代ガンダムを、当時の文脈に置いて見直してみるきっかけになるかも知れない試みなのです。



 このリアリズムの転換が、一番ダイナミックに起こるのが、実は世間的には不要と言われがちな第6話からのファーデーンでのエピソードです。そこに解説が至るのを楽しみにしつつ……今は、フリットの長い旅の始まりを見守る事にしましょう。
 次回に続きます。


(2013年5月30日追記
 上記のように書いて特に気にしていなかったのですが、先日、アメリカの雑誌にて、「米軍空母に3Dプリンタを積み込んで、その場で兵器やドローンを作って運用してしまおう」という構想があるという記事が載ったそうで。
 放映当時、「AGEビルダーなんて技術的に無理過ぎる、リアリティがない」と批判されていましたが、実は本当にそんな技術が可能になる、その入口くらいはもう見えているのかも知れません)



      ▼その他


 ガンダムで移動中に、逃げ遅れたユリンを見つけたフリットさん。
 飛来する看板を取り除いて助けてあげたのに、ユリンは逃げていきます。



「なんで逃げるの!?」と慌てるわけなのですが……。



 こんな至近距離にビームぶっ放されたら、普通逃げます。


 その辺をとっさに察せられないあたり、いかにもフリットさんらしいところで微笑ましいです(ぇ
 と同時に、ここでとっさに飛来する看板に命中させられる辺り、かなりな技量を既に持っている事も見受けられるわけなのでした。


 ちなみに、ガンダムコクピットフリットの膝の上に乗り込んでるユリンですが……普通、体を固定しないまま宙域戦闘なんてやったら、同乗者はカクテルシェイカーに放り込まれた氷みたいな状態になりますので、控えめに言っても大ケガします。
 ……この時点ではまだ、AGEの作中リアリズムはスーパーロボット時空なので、細かいところには目をつむってあげるべきなのかも。




『機動戦士ガンダムAGE』各話解説目次