機動戦士ガンダムAGE 第3話「ゆがむコロニー」
▼あらすじ
引き続きUEと交戦を続けるフリット。敵の動きに翻弄され苛立つが、ユリンがフリットの手に手を重ねると、敵の動きを徐々に見通せるようになっていく。苦戦するも、どうにかUEの黒いMS型を撃退する事に成功した。
一方、ブルーザー司令の身を挺しての行動によって、ノーラのコロニーコア切り離しは成功し、辛くも崩壊するコロニーからの脱出に成功したのだった。
最期の瞬間、ブルーザーはフリットに言葉をかける。力を手に入れた以上は君には責任がある。救世主になれ、と。
▼見どころ
▽ブルーザー司令
ブルーザー司令の強い意志が印象に残る第3話。同時に、彼が孤児となったフリットの引き取り手であり、事実上の育ての親であった事が語られます。
特にブルーザー司令がフリットのモチベーションを大事に見守っていたことを、短いやりとりの中で伝える脚本に注意しておきましょう。
「モビルスーツが救世主か。お前は面白いことを言う」
この口ぶりから察するに、ブルーザー司令は当然、「モビルスーツがただの一兵器に過ぎず、従ってどれほど高性能でも救世主になどなれない」という現実を承知しています。初代ガンダムがそうであったように。
けれど大事なのは、彼はフリットにそんな現実を突き付けて失望させる大人ではないという事です。彼はフリットの肩に手をかけて言います、「ガンダムか、期待しているぞ、フリット」。
もちろんだからといって、フリットが本当に連邦軍の正式採用MSより高性能なマシンを作れてしまうというのは、リアリズムの点であり得ない事ではあります。しかしともあれ、フリットが「ガンダム」を完成させられたのは、ブルーザーのように少年の夢とモチベーションを壊さずに見守ってくれた存在がいたからだろう、という事が察せられます。
(一度アセム編以降を見た方であれば、後年のフリットが息子や孫の「やりたい事」にどのように接していたかを思い返して比較されると良いと思います。アセムが受けた「次世代パイロット訓練プログラム」の結果を受けて、フリットが息子にどんな言葉をかけたか等)
さらに、ブルーザー司令はこうも言います。
「生きて、アスノ家の血を引き継いで見せろ」
この物語が、フリットから始まる三世代の話であることを思うと、ブルーザー司令が幼年期のフリットにこのように声をかけていたことの重要性はお分かりでしょう。
そのような人物が、フリットに後事を託して散っていくのでした。「救世主になれ」と最後に声をかけられた事は、フリットの人格形成に強く影響していきます。
▽ユリンの能力と「ニュータイプ」
第2話の時点で片鱗を見せていたユリンの「ニュータイプっぽい能力」ですが、ここにきてフリットの戦闘をサポートする形で、さらに印象的に描かれます。ユリンがフリットと手を重ねるのを境に、ユリンに見えたものが伝わったかのように、フリットにも敵の動きが見え始めるのです。
背景色が変わり、敵の動きが見える。演出も宇宙世紀ガンダムがニュータイプの能力で敵の動きを見切る際のものに、よく似ています。
初代ガンダムでも、ニュータイプ能力による先読みを描写する際に使われた表現です。
やはり、ガンダム、それも初代ガンダムを将来的に作中に取り込んでいくならば「ニュータイプ」は避けて通れません。早々に、類似した存在を作中に登場させたのかな、と思えます。
ただし、ガンダムAGEに登場するニュータイプ的存在(のちに、「Xラウンダー」という名称が提示されます)と、宇宙世紀におけるニュータイプとでは、実は意味するところがかなり違います。
そして、「Xラウンダー」と「ニュータイプ」の何が、あるいはどこが違うのかを比較していく事は、『ガンダムAGE』という作品を読み解く上で非常に有用な補助線となっていきますので、今後もAGEを見進めるうえで、この能力が登場、あるいは言及されるシーンには注意してみてください。おいおい解説していきたいと思います。
とりあえずは、以下の2枚のカットをよく覚えておいていただけると幸いです。第5話の解説で言及します。
▽身を盾にするガンダム
いよいよコロニーコアが引き抜かれ始めたところで、黒いUEがそちらに向かう素振りを見せます。阻止しようとするも、ドッズライフルの残弾はなくなってしまいます。そこでフリットがとった行動が、これです。
当たり前ですが戦術的に意味のある行動ではありません。ライフルの残弾もない状態で、敵が構わず攻撃してくればむしろ撃墜される可能性の高い行動です。
これで敵が撤退していくのも従って通常は不合理なのですが、その点は今は措きましょう。この黒いUEはディーヴァに対しても、撃沈可能な位置をとりながら見逃して立ち去るという謎めいた行動をしています。どうもこの黒い敵は特殊なようです。
ともあれ、フリットがガンダムに取らせたこの行動は、これもAGEの物語の要所要所でリフレインされていくカットなので、記憶に留めておいてください。
(以前紹介したさわKさんの感想でも、このシーンは大きく取り上げられていました。)
……どうにも、この辺の、シーンの呼応関係や伏線の入り組み具合が多く、本当にロボットアニメの解説を書いているのか自分でも怪しい気分になってきますね。どちらかというとミステリー作品の解説をしてる気分です(笑)。
▽ゆがむコロニー
単純な見どころですが、コロニーコアが脱出を果たした後、ノーラが「ねじれ崩壊」を起こしていく様子の作画は非常に力が入っていますので、お見逃しなく。
私はSFや工学などにそんなに明るいわけではないので印象に過ぎませんが、このシーンでコロニーが崩壊していく過程の描き方については、SF考証的にもかなり正確な、よく監修された描写だったのではないかなという気がします。
相変わらず、リアリズムの希薄なガンダムAGE−1周辺の描写と並行して、この辺りは非常に密度の高い「リアル」を描こうとしていたりして。作品全体の意図が実感できないうちは何とも居心地が悪い事ですが、今は先へと進んでいきましょう。
▽今週のフリットさん
UEとの戦い、ユリンの能力とサポートによってどうにかしのぐことができたフリットさん。ディーヴァ艦内にてようやくゆっくりと向かい合い、言葉を交わします。
そして出てくる言葉が……
……いやいやいやいや。どっちかっていうと助けられてたの、あなたの方ですよフリットさん。
最初見た時、画面の前で思い切りツッコミいれてしまいました。
フリット・アスノという人が分かりやすく理解できる面白いシーンではあります。
「救世主になる」、つまり自分が人を救わなければならないという方にばかり意識が向くあまり、自分が逆に助けられてるという事にはあんまり気づかない。
そういう人、あなたの身の回りにいませんか?
私事ながら、私の身内にちょうどそういう人がいるんで、フリットさんのセリフを聞いて失笑してしまいました。
こういう、登場人物のダメなところが描かれているというのは、欠点ではなくて、むしろ作品として「人間を描けている」という、プラスの部分なのだろうと思います。
フィクションにおいて、そのキャラクターの人間味を描けているかというのは、つまるところその人物の短所が描けているかどうか、という事とイコールだったりするものです。
そんなわけで、筆者私にとって、フリットという人物が身近に感じられるようになった印象的なシーンだったりしました。
次回に続きます。