機動戦士ガンダムAGE 第4話「白い狼」

     ▼あらすじ


 ヒーリングスリープから目覚めた、「白い狼」の異名をとるエースパイロット、ウルフ・エニアクル。ディーヴァのMS隊隊長を任命されたウルフはガンダムを自分の機体にしようとしてフリットと対立する。結果、ガンダムをかけて二人の模擬戦を開催する事に。
 しかし模擬戦中にUEと接触。さらにレーダーに探知されない「見えざる傘」に隠れていた、UEの巨大艦と遭遇してしまう。
 ウルフはとっさに、フリットをディーヴァへの状況報告のため逃がし、自身は持ちこたえようとするが、撃墜の危機に瀕してしまう。そこへドッズライフルを手にしたフリットが再度駆けつけ、ウルフの機転もあり辛くも敵の目を逃れるのだった。


      ▼見どころ


   ▽ウルフ・エニアクル



 初っ端から謎のサービスシーンで始まる第4話。


 野郎の裸なんぞ誰得……と言いたいところですが、男性キャラのサービスシーンはこれも初代ガンダムに同様のシーンがあり、もしかしたらオマージュです(笑)。



 シャア少佐の貴重なサービスシーン



 あと、この側頭部の髪の毛が、犬の耳みたいにピクピク動きます。謎の狼アピール。
 ちなみに以降の話では特に強調されません(笑)。



 さて、そんなわけで色々とアレな登場の仕方をしたウルフ・エニアクル氏。ディーヴァクルーに尊大な態度は取る、ミレースをナンパしようとする、と周囲(と視聴者)の反感買いそうな事をダイジェストで一通りこなします。
 あげく、ガンダムを強引に自分の乗機にしようとするのでした。
 結局会話は平行線をたどり、ウルフの提案でガンダムを賭けての模擬戦を行う事になります。



 この、ガンダムパイロットの座をかけての模擬戦は、『機動戦士ガンダム0083』での、コウ・ウラキとベルナルト・モンシアがGP01のパイロットの座をかけて模擬戦をした展開の引用、あるいはオマージュです。
 ただし。『ガンダムAGE』において、他ガンダム作品の引用や、展開の踏襲は、ただ闇雲に行われているわけではありません。時には元作品の展開を解釈しなおしたり、あるいはAGEのテーマやストーリーに合うように最適化しなおしたり、場合によっては丸きり意味が反転される事もあります。ですから、AGEでこういった場面に行き当たった時、元作品と比較対照させてみる作業が、読解の上で重要になってきます。
 この場面については、0083で模擬戦が行われた回の次の話、「熱砂の攻防戦」まで含めた比較をしてみます。


 模擬戦でガンダムパイロットの座を死守したコウと、敗れたモンシアですが。その次の戦闘でモンシアはMS小隊長としてコウ、キースを引き連れて出撃するも、敵の陽動に頭から突っ込み、包囲されてピンチに陥ります。
 この間、モンシアは小隊長の権限の元コウの疑問や反論をすべて封殺し、ついで敵に囲まれてからは、ガンダムパイロットになれなかった妬みも露わに、コウに状況打開を押し付けます。



「ウラキが乗ってるのはガンダムだ。お前が突破口を開け」


 そして、有名なセリフ「ウラキ少尉、吶喊します!」につながるわけですが。



 以上の事を踏まえた上で、UEと接触してからのウルフの対応を見ると、まるで対照的に描かれている事がわかります。
 敵と遭遇してからのウルフは、一貫してフリットに「お前はディーヴァに戻れ」と言い続けているからです。特に、「見えざる傘」の中に入り、ディーヴァとの通信が途絶、敵に囲まれて四面楚歌の状態になってからも、あえて性能の低いジェノアスカスタムに乗る自分が残り、フリットガンダムは戻らせるという判断に揺らぎがありません。



 この辺、明らかにフリットを危険な状態から遠ざけるために、あえて敵を引き受ける行動を見せています。


 また、見えざる傘」の中で、フリットが恐怖感から下手に動き敵に発見された事も、ウルフは最後まで責めたりしていません。
 これ以降、ウルフはフリットの少年であるが故の勇み足や揺れは年長者としてフォローし、それ以外のMSパイロットとしては完全に一人前として認めるといった振る舞い方に徹します。フリットにとっても、ウルフはここまでで初めて「対等に張り合える仲間」として重要な存在になっていきます。



 ……もちろん、「だからウルフすげぇ、モンシアはダメ」と単純に言いたいわけではありません。実際の軍組織で、新兵の方が高性能な装備を占有していればあのような態度で接する年長者が出るのは当然考えられる事で、モンシアの嫉妬心の描写は、あれはあれで『0083』という作品のリアリズムを支えています。
 むしろ、ガトーという存在に対して頼りない新兵でしかないコウというキャラクターにとっては、モンシアのような存在を乗り越えるドラマは成長の一端として効果的に作用しているわけです。
 一方フリットはといえば、わずか14歳でガンダム及びAGEシステムを完成させ、人類で初めてUEを撃破、グル―デックやブルーザーにも最初から一目置かれているスーパーマン状態ですから、むしろフリットの少年としての弱さを描く方がドラマとして効果的です。であればこそ、ここでモンシアのような人物が出て来ても仕方ありません。ここぞという時には少年フリットより上手く立ち回れる年長者ウルフのキャラクターによって、ようやくフリット・アスノという人物の人間的な側面を浮かび上がらせる事が出来るという話の組み立てになっています。
 実際、前回の解説記事で少し茶化し気味に書いたように、フリットは戦闘中助言をしてくれたユリンにすら「ありがとう」を言わなかったのですが、この回でウルフには礼を言っています。ウルフという兄貴分を得る事で、ようやくフリットに年相応の可愛げが出てくるわけです。
 そんなわけで――他ガンダムから場面を借用するにしても、ここまで計算した上で物語に効果的に取り込む、というのが『ガンダムAGE』です。


※ついでに言えば、上記のように書きましたが筆者は別にモンシアが嫌いなわけでもありません。むしろ好きな部類に属します。プレイ中の『Gジェネオーバーワールド』でも7〜8人目くらいにはモンシアを自軍にスカウトしましたし(←それもどうか


 ところで。ウルフは何故、年端もいかない生意気な少年を、一人前として認める気になったのでしょうか。
 その答えは恐らく、ラーガンの次のセリフにあります。



「周りに敵無しと悟るや、鳴り物入りで軍に入隊した変わり種でね」


 ウルフには恐らく、対等に戦えるライバルが存在しなかったのでしょう。
 その点で言うと、UEとの遭遇戦では弱い所を見せたものの、模擬戦ではフリットはウルフに一矢報いています。また目の前で実際にUEを撃墜して見せてもいます。
 推測ですが、ウルフにとってもフリットは初めて自分と対等に渡り合った相手なのでしょう。それが可愛げのある弟分であれば、認めても良いと思ったのかも知れません。
 ちなみにフリットとの模擬戦を境に、ウルフはディーヴァクルーなどに対しても、初登場時のような尊大な態度を取る事をあまりしなくなっていきます。彼は彼で、フリットとの出会いに得る物があったのでしょう。



 閑話休題
 ウルフのジェノアスカスタムが、突出し過ぎるAGE−1を止めるシーンがあるのですが、こういう時ウルフは止めたい機体に正面から組み付くようにして機体全体で相手を押しとどめます。



 こんな風に。
 AGEを既に一通り見終えた方なら、このカットに見覚えがあるという方もいるのではないでしょうか。
 同じパイロットなら、機体が違ってもこういう時とっさに同じ挙動をとるものです。こうした細かな動きのクセによって、無機質なメカにも、操縦している人間の姿や感情を見出す事ができます。
そして、味方機体を咄嗟に危険な場所から逃がすこの動作も、シリーズを通してリフレインされていく事になります。



   ▽UEの巨大戦艦?


 この第4話のポイントは、表題にもなっているウルフ・エニアクルの紹介と、そしてもう一つ。UEの巨大な戦艦が登場するところが、ストーリーの進展を見た時に重要になります。



 出現シーン。


 ここでも、この巨大艦が弾き飛ばした小石のような隕石が、ウルフたちMSと比較するととんでもない大きさに映る、という段取りを挟んで、その巨大さを短時間でアピールするという手順を何気なく踏んでいたり。相変わらずセリフで説明せずに済む事は極力説明しないAGE的駆け足演出がされていたりします。


 非常に独創的なデザインであり、当たり前ですが連邦軍の戦艦とは大きく隔たった感性による造形である事が見て取れます。


 そして。やはりセリフだけ聞いているとこの時点ではまったく触れられていないのですが、確実に視聴者に違和感を生じさせる狙いを元にこの巨大艦は登場させられています。
 UEが本当に、ただのモンスターなのであれば、それらが「戦艦」を運用しているというのは想像し難い事です。
 本当にUEという敵は、ただのエイリアン、ただ殺戮をするだけのモンスター的存在なのか、という疑問を、丁寧すぎるくらい少しずつ物語に織り込んでいく。
 こういう所で、ちょっと慎重すぎるくらいの段取りを踏んで進んでいくのが、良くも悪くも『ガンダムAGE』の特徴なのでした。


 次回に続きます。



『機動戦士ガンダムAGE』各話解説目次