機動戦士ガンダムAGE 第18話「卒業式の戦闘」

     ▼あらすじ


 ついに、通っていた高校を卒業する日を迎えたアセムたち。
 しかしその卒業式の最中にMP(憲兵)隊が現れ、ゼハートにスパイ容疑をかける。
 ゼハートの部下、ダズが割り込むことで憲兵たちは去って行ったが、潮時と見たゼハートはゼダスRに乗り込んでトルディアの制圧作戦を開始。ガンダムに乗ったアセムと戦闘になる。格闘戦に押し勝ったゼハートはその身を晒し、アセムに「お前のような優しい奴は戦いをするべきじゃない」と言い残し、去っていくのだった。



      ▼見どころ


    ▽学園生活終了


 アセムたちの、学生生活最後の日々が綴られます。
 冒頭、あわや宇宙漂流の危機に陥った学園の問題児、ロッド・アブスをアセムが助けるシーンから、卒業式の様子までは、まるでガンダム作品である事を忘れてしまうような流れになっています。



 多分、過去のガンダムにこんなシーンは1つもなかった。


 そして、実質2話しか(ゼハートの部への加入から数えればわずか1話未満しか)なかったアセムたちの日々を補完するように、部室に貼られた写真が画面に入るのでした。





 いやー、こんな学生生活、私も送りたかったなー(遠い目


 そして、彼らの卒業式もまた、輝かしい青春としか言いようのない、歓喜の中に進んでいくことになります。ガンダムの主人公で、こんな平和で恵まれた卒業式を迎えられた人物は今まで一人もいなかったんじゃないでしょうかね。



 学園きっての問題児、ロッドとも和解。
 最初に見た時、普通に「良い話だなぁ」とか思ってしまいました。



 卒業生挨拶をこなし、笑顔で送られるアセムたち。
 ここまで、一連のシーンは本当に、ガンダムシリーズである事を忘れてしまうような爽やかさでした。このまま式が穏やかに終わっていれば、それはそれで特異なガンダム作品になったかもしれません。
 しかしここから、事態が動き始めます。



    ▽ゼハートの出撃



 幸福なうちに終わるはずだった卒業式は、乗り込んできたMP(憲兵)によって中断されました。
 主人公の学生生活を、MPが終了させてしまうという展開もまた、『Zガンダム』序盤の展開をなぞっているわけですが。しかしZでは主人公カミーユが「エゥーゴ疑惑」を駆けられたのに対して、ここで疑惑をかけられたのはゼハートでした。
 そして、ヴェイガンのスパイ疑惑をかけられたゼハートを、アセムはかばいます。



「ヴェイガンなわけないでしょ! 俺たち、ずっと一緒にやってきたんだ……!」


 ゼハートは「ヴェイガンなどではない」、というのがアセムの主張です。ここではまだ、ヴェイガンは単純に「敵」を意味する言葉になっている、というのを一応確認しておきましょう。


 収拾がつかなくなりかけた状況を打開したのは、ゼハートの忠臣ダズ・ローデンの介入でした。



 ここで、数いるうちから人質に選ばれるあたり、ロマリーさんのヒロイン力の高さも侮れません(笑)。
 もっとも、ここで深読みするなら、ダズはあえてロマリーを選んで銃を突きつけた可能性もあるかも知れませんが……少し後で書きます。



 ダズが発砲、逃走した事で、MPたちはゼハートへの嫌疑を一時収めて引き上げていきます。これも、冷静に考えれば、ダズがあそこで突然騒ぎを起こしたのは極めて不自然であり、ゼハートの嫌疑をかえって深めかねない行動だったようにも思えます。明らかにゼハートから気を逸らそうとした以外に、あの発砲の意図が見えないわけですから。
 とはいえ、「ヴェイガンのトルディア侵攻とゼハートの入学が同時期だった」以外に嫌疑の材料を持たなかったような方々なので、咄嗟にそこまで頭が回らなかったのかも知れませんが。
 もし、息子の卒業式にフリットが参観に来ていたら……ゼハートはここで捕まって終わりだったかも。



 ここでMPの嫌疑から逃れたゼハートですが、MSを起動させたダズと合流、自身もゼダスRで出撃するのでした。



「ダズ、騒ぎを起こしてくれて助かった」
「そろそろ潮時だったということでしょう。待機させていたドラド隊にも指示を出しました。我々は、トルディアの制圧任務に移ります」
「わかった。指揮はわたしが執る」


 ここで、ダズが「そろそろ潮時だったということでしょう」と言っているのが面白い所です。
 思うに、ゼハートの潜入任務は、前回を最後にほとんど収穫がなかったのではないでしょうか。というのも、この後アセムの乗るガンダムと接敵した際、
ガンダム、やはりまだこのコロニーに……!」
 とゼハートがポロッと言っているからなのですが。


 前回、モビルスーツ競技大会の最中に戦闘を仕掛けた結果、ガンダム連邦軍基地に運び込まれています。もし、それを最後にヴェイガン側がガンダムAGE1の、所在すら掴めていなかったとすれば。
 それでいて、部室の写真にあったような、決して短くないだろう学生生活をゼハートが送り続けていたとすれば。これは潜入作戦としては、成果のないまま失敗し続けていた事になります。
「そろそろ潮時だった」というダズのセリフは、そう考えるとけっこう切実なものだったのかもしれません。あるいはゼハートに学生生活との決別を促すために、あえて人質に彼の友人であるロマリーを選び、その額に銃口を向けて見せたのかも知れない、というのもあながち邪推ではないような気がします。



 ゼダスRに乗ってからも、ゼハートはかなり未練たらたらなセリフを残していますので、これは是非本編をご覧になって確認してください(笑)。



 やがてアセムの乗るガンダムと戦闘に入り、ゼダスRの追従性能がゼハートについて来れなかったため一時アセム優勢となりますが、



 逆転。
 そしてゼハートは、



 アセムに自らの姿を晒して見せるのでした。
 軍人としては甘い行動という事になるのでしょうが、ゼハートの年齢と、彼が学生時代に過ごした時間を思うと、そう言い切ってしまうのはさすがに酷でしょうかね。



「お前とは、あのまま友達でいられたかもしれない」
 こういう、憂いのある笑みの作画にだけ別格に力を入れるのがガンダムAGEです(ぉ


 そしてゼハートは、
「お前のような優しいヤツは、戦うべきじゃない!」
 と言い残して、去っていくのでした。


 ……ちなみに、ここでゼハートがアセム相手に身を晒した事で、駆けつけたロマリーにもその姿を見られてしまい、後日さらなる修羅場を呼び込むことになるわけですが(笑)、まぁそれはその時にまた。



   ▽小ネタ


 何気にこの回、フリット編で活躍したあの人がちらっと出てきます。



 顔は映らなくても、こんな色のMSに乗る物好きなパイロットは一人しかいません。
 かつてアンバット戦で、UEの若い死に掛けパイロットを看取り、敵もまた人間である事を身を以て体験している“彼”ですが、この回のセリフはといえば、
「我が隊はこれより迎撃にあたる。お前ら、異星人野郎になナメられんじゃねぇぞ!」
 ……と、別にしおらしくなったりはしていない、かつての“彼”のままなようです(笑)。


 ここでヴェイガンを「異星人野郎」という風に呼ぶのは、宇宙世紀ガンダム作品で、連邦側の軍人(ブラン・ブルタークや、『ガンダムセンチネル』のブレイブ・コッドなど)がスペースノイドを「宇宙人」と呼ぶのに通じる要素です。敵に対してだからこそ出てくる、ちょっと乱暴な表現ですね。
 この辺りでも、Z以降の「ガンダムっぽさ」を、ちらちら差し挟んでいたりもするのでした。


 ……さて。
 こうしてアセムたちの学生生活が終了し、次回から連邦軍に話の舞台が移ります。
 それと同時に、アセム編の主要テーマもまた、段々と表に出てくるわけなのですが……合わせて私の方でも、ガンダムシリーズがずっと取り組み続けてきた種々のテーマ、問題についてピッチをあげて纏める準備をしていかないといけませんので。
 当解説記事も、そろそろ本格的にエンジンをかけていく事になりそうです。


 そんなわけで、また次回。



※この記事は、MAZ@BLOGさんの「機動戦士ガンダムAGE台詞集」を使用しています。


『機動戦士ガンダムAGE』各話解説目次