小説版『ガンダムAGE』第4巻



 4巻まで読了しました。
 先日コメント欄で教えていただいたのですが、この小説版のガンダムAGE、増刷がかかったのですって? 大変素敵な朗報だと思いました。


 さてこの小説版4巻ですが。
 まぁ、この作者の手腕についてはここまで散々褒めてきたので、それは繰り返さずとも良いでしょう。相変わらず、純粋にロボットアクションとしての盛り上げをするのが上手い。
 また、ゼハートがアセムを「親友」と思っている事を強調して書く事で、キャラクター同士の情もよく流れていると思います。アニメ版は尺の都合上、どうしてもそこが希薄になりがちでしたからね。



 しかし一方で、この4巻は、個人的に違和感というか、アニメ版のプロットの狙いを外した部分も多かったような気がします。


 たとえば、ヴェイガンの地球侵攻作戦が、一年戦争的な、敵地を「占領」する戦いであると描いてしまっている事なんですが……一回しかアニメ版を見ていませんが、私の記憶の範囲内ではアニメ版では地球の土地をヴェイガンが「占領」していったと取れるやり取りはなかったように思います。
 なぜこれが問題かというと、21世紀に陣取り合戦的な戦争というのは、ほとんど起こらない、かなり下火な現象だからなのですよ。それはガンダムの監督である富野由悠季氏が2002年発行の『戦争と平和』という書籍の中で既に指摘した事で(21世紀の戦争では、最早両軍が全面衝突するような、初代ガンダムア・バオア・クー戦のような戦場は形成されない)、現にアメリカのイラク戦争の際に厳然と明らかになった事でした(米軍がバグダッドに攻め込むと、イラク軍側はあっさりとバグダッドを放棄し、大規模戦闘が起こらなかった。その後、バグダッドを占領した米軍に対する継続的なテロ攻撃という形の反撃が起こった)。
 ガンダムの歴史上でも、明確に陣取り合戦の戦いをしていたのは初代ガンダムと、せいぜい『ガンダムSEED』くらいで、それ以外は基本的にテロ、ゲリラによる戦闘が中心になっているのです。


 特に私は、ガンダムAGEはガンダムの歴史を敏感に取り入れて作られていたと考えているので、キオ編でのヴェイガンの地上侵攻は陣取り合戦的な戦いではなく、「隣人が敵かも知れない」テロ時代の戦いだったろうと考えているのです。キオ編第一話で、都市に隠れていたヴェイガンのMSが次々に現れるといった描写は、そうした意識の表れと思っていたので。
 だとすれば、小説版がこれを旧世紀的な陣取り合戦の戦いとして描いたのは、アニメ版を読み解く際に影響を与える大きなミスリードになり得る気がするのです。ちょっと違和感でした。



 また、ヴェイガン国内のマスメディアの報道を描くのに、なんかどうしても、日本の戦時中の大本営放送みたいなのをモデルに描いてしまうんだよなぁ、というのがね。これは『MS IGLOO』なんかにも露骨にあったりするわけなんですけど。そういうところで未だに戦時中日本のイメージを引きずってしまうというのは、私はちょっと安直だと思ってしまうし、端的に嫌いなのです。
 初代ガンダムにしたって、ギレンの独裁体制が戦時中のファシズムを連想させやすいからこそ、富野監督はあえて、ギャロップとかファットアンクルとか、ジオンの兵器の名前を英語にして、ドイツ語的な要素、ナチスを思い出させる要素は極力排しているのに、OVAでの外伝作品だといつの間にか、ケンプファーだとかシュツルムファウストだとか、まんまドイツ語っぽいネーミングでやってしまうという。なんだかなぁ、と。



 そして何より、この巻の最後で、イゼルカントを「安っぽい独裁者」としてキオに断罪させてしまうのですが、それはさすがにどうなんだろうか、と。
 イゼルカントの言ってる事を「社会ダーウィニズム」って切り捨てるのは間違いじゃないんですけどね。しかし問題は、それで言うならギレン・ザビも、逆シャアでのシャア・アズナブルも(ついでに言えばSEED DESTINYデュランダル議長もか?)ある種の社会ダーウィニズムを抱えていた事で。つまり歴代のガンダムが取り組んできたテーマなわけです。
 しかも近年、小説版UCのラストとかもそうですし、またガンダム00で刹那君が真のイノベイターになっちゃったりもして、その「社会ダーウィニズム」が微妙にガンダム界隈にリバイバルしそうな気配もあるわけで。


 ガンダムAGEはこうした問題意識に対する、かなりよく考えられたカウンターとして作られているというのが私の見立てなんですけれども、イゼルカントをこの4巻最後の段階で断罪しちゃうと、そこが深まらないと思うのですよね。
 なんかなぁ、エンタメとしては見違えるように良くなってるんですけど、テーマ性の面では後退しちゃってるという印象があります。



 なので、ツイッターでも書いたのですが、私は話のプロットに限れば、小説版よりアニメ版を支持する次第です。



……まぁ、大半の読者さんは、そんな面倒くさいことを考えながら読んだりはしないのでしょうから、小説版が安心して読める、という評価で別に良いのだとは思うのですけどね。


 そんな感じで、ちょっと煮え切らない感想でした。


戦争と平和 (アニメージュ叢書)

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