ガンダムAGE小説版第5巻



 ようやっと最後まで読み終えました。世評の良い小説版のAGEです。


 一貫して、アニメ版で指摘されていた矛盾点やプロットの穴を埋める、その手際の良さは心憎い感じです。「Cファンネル」のネーミングとか、ディーヴァ沈んだのになんでAGEビルダーあるのかとか(笑)。



 なので、作品全体の完成度については、私としても素朴に感心するしかない気分でもあります。
 評価が難しいのは、その先でして。



 正直なところ、アニメ版の方の『ガンダムAGE』のテーマ、問題意識などを考えた時に、小説版が示した結論は全然別、というか真逆の方向を向いたのだな、とは思ったのでした。そして、私自身のアニメ版AGEへの解釈と、私自身がガンダムに見出してきた問題意識で見た時に、これは「小説版の結論は、私は採らない」と言うしかない。
 これはまぁ、アニメ版の各話解説で詳細に述べようとしている事をある程度、先取りで書くことになるのですけれども。
 要するに、第40話からの「三世代編」でのキオ・アスノを、どう評価するかって事で。



 40話以降のキオが何をしていたか。
 月面でのジラード・スプリガン戦でXラウンダー能力による説得(ニュータイプの交感:『ガンダムUC』)、最終決戦においてザナルド・ベイハート戦で不殺主義(キラ・ヤマト:『ガンダムSEED』)およびFXバースト(トランザムやクアンタムバースト:『ガンダム00』)……と。これらの方法での戦闘終息に、いずれも無様に失敗し続けるという事をやっていたわけです。
 つまり。キオ・アスノは、ゼロ年代ガンダム作品、『SEED』以降のガンダムの反省会を、一人で身をもってやっていた、と見ることが出来ます。


 そしてその末に、体を張って祖父を説得する、という方法で、ヴェイガンと連邦との和平への道を開いた。キオ・アスノというキャラクターへの評価は、この事に焦点を当てて考えないといけないわけです。肯定するにせよ、否定するにせよね。
(3月8日追記:当初、上記部分で、キオが祖父をXラウンダー能力を使わずに説得した、と記述していましたが、コメント欄で事実誤認である旨ご指摘を受けましたので、改訂しました)


 以上のように考えた時に、小説版のキオが、Xラウンダー能力と不殺主義とFXバーストを全部使って状況を開いたとした事は、テーマ的にまったく逆のメッセージになってしまうのですね。
 まぁもちろん、アニメ版でもヴェイガンギア・シドの撃破にはFXバーストを使用してはいるんですが。しかしそこに至るまでの展開の違いは、テーマ解釈の次元ではかなり真逆を向いているのではないかと、私には読めました。
 で。私がどちらを取るかと言えば、結局これについては、アニメ版を採る。各話解説を書こうなどと重い腰を上げる気になったのも、元はと言えばそこに共感したから、なのですから、結論としてはそういわざるを得ない部分があります。



 ………………そうなんですけどね。


 ただ、困ったことにこの小説版、ドラマとしての熱さがトンでもなくてですね、正直読んでて超熱くなったわけなのです、私(笑)。結論には納得してないんですけど、もう老フリットと少年フリットがバトルし始めたりするくだりとか、うぉおおおお!ってメチャクチャ盛り上がって読んでしまったわけでして。
 最後のヴェイガンギア・シド戦とかもね、熱量はすごい伝わってくるんですよ。こうなると、細かい理屈とかね、吹っ飛んでしまうのです(笑)。ああ、うん、これは凄い作品だわ、って読み終えて思ったのでした。


 ですから、これが私の小説版AGEへの最終的な結論です。
 メッセージには賛同しない。けど、素晴らしい戦いぶりだった。ブラボー、拍手喝采。こんなに素晴らしく熱のこもったノベライズを得た事は、ガンダムAGEという作品にとってこの上ない僥倖だったのだと思います。


 いやいや、充実した読書体験でした。作者様に感謝。
 その上で、私は私で、アニメ版AGEのテーマを探る作業に、戻る事にしたいと思います。