アリエナイ理科の教科書



 実は結構売れているらしい、マッドサイエンス普及の書。
 まぁ、悪用するといろいろヤバい知識が色々書かれていたりもしまして、地方自治体によっては有害図書扱いだったりもするそうなのですが。私自身も、もしこれを読んで何かあった時に責任取れないので、あまり声を大にして人に勧めるのは憚られる(笑)。
 しかしそれでも、この本はけっこう優れた本だと思う。



 ここ何週間か、私は化学関係の読み物なんかを読んでたわけですけどね。
 たとえばですが。先日ここに感想をあげた、こんな本があるわけですよ。



面白くて眠れなくなる化学

面白くて眠れなくなる化学

『面白くて眠れなくなる化学』


 で、書店の化学関係の書棚に行くと、初学者向けにこういう本があるわけです。


高校で教わりたかった化学 (大人のための科学)

高校で教わりたかった化学 (大人のための科学)

『高校で教わりたかった化学』


 でですね。何が言いたいかというと。
 前者のような一般向け読み物を何十冊読んでも、後者のような本を読みこなせるようにはならない、って事なんですよ。結局、化学が専門じゃない人でも分かるように、というコンセプトで書かれたものは、せいぜい元素周期表が出てくるくらいでお終いというケースが多く。ちなみに上記『面白くて眠れなくなる化学』は周期表すら出て来ませんでした。
 結局、一般人が脱落しないでついて来れる内容に限るとそうならざるを得ないという理由なのでしょうが、しかし文系の社会人とかが、独学で化学をすこし勉強しようと思っても、前者のような本と後者のような本の間にあるギャップが思ったより広くて、なかなか「入門」できない感じがあります。
 そんな中。この『アリエナイ理科の教科書』は珍しく、前者と後者の間に橋渡しをしてくれる内容だったように思えたのでした。読み物的なラフな関心を持ったまま、「周期表って、元素をあんなズラズラ並べてどういう意味があるのさ」とか、「ベンゼン環って何なのさ」って辺りまで、ちょっと背伸びするくらいの努力で連れて行ってくれるのですよ。それが、私のような半端者には有難かった。
 実際、本書を読んでから、書店の店頭で化学の初学者向け入門書を手に取って、実感しました。あ、私これくらいの本を読めるようになった、と。ゲームで言えば、新しいミッションが開放されたような感じ。


 また、本書を読んでて、「なぜヒ素は人体に有害なのか」の理由が元素周期表を補助線に引く事で説明できるという話には、久しぶりにちょっとした知的興奮を感じた次第。元素周期表が何なのかは知識として知っていましたが、「元素周期表をどう使うのか」はこの本に初めて教えられました。


 大体、どんな分野でもそうですが、不純な動機の方が勉強って頭に入るもので(笑)。いきなりしゃちほこばった本を読み始めるより、こういうおバカな本から入った方が良い、というような事は案外多い物です。一応、本当に危ない実験とかについては、本文中でも注意喚起はちゃんとありますし。装丁から感じる印象よりは、(まぁほんのちょっとくらいは)良心的な本ですw
 雑学を蓄えるにも、実践にトライされる方にも、案外良いのではないかと(と語尾を濁しておくのであった