オズの魔法使


オズの魔法使 特別版 [DVD]

オズの魔法使 特別版 [DVD]


 これも前から見ようかなと思ってた作品の一つ。
 正直、今の時期はお仕事が忙しくて体力的に余剰があまりないので、あまり重くない、気軽に見られるものを選んだつもりだったのですが、実際に見てみたら、なんか色々考えてしまったというわけで。


 まず総評として言えば、ものすごく面白かったわけです。映像表現として、随所に見どころや面白さがありました。特殊撮影や効果なんかも今日から見れば技術的にははるかに出来ることが少ないはずなんですが、見せ方が上手いので気になりません。西の魔女初登場シーンとその退場とか、普通にびっくりしてのめり込んで見てしまいました。
 随所にちりばめられている小ネタとかも面白く、退屈せずに見終えられました。


 そういう、表現の素晴らしさの面で、とかくさすが名作という感嘆もあったのですけれど、同時にどこか、違和感を感じる部分もあって、そのことでけっこう考え込んでしまったのでした。


 一番感じたのは、やっぱりあれですよね、大魔王オズの正体ですよね。あれ見た瞬間の私の中の動揺は相当なものでした。そんなちゃぶ台返しありかよ、って(笑)。
 要するに、あれって「ミッキーマウスの中の人見ちゃいました」って展開なわけじゃないですか。もちろん、それはオズに限った事で、西の魔女とかの魔法は本物なのだって事でしょうけれども……それでも、本物の魔法や不思議な住人たちが住んでるファンタジー世界の人たちが、機械仕掛けのハリボテを支配者として仰いでた事は変わらないわけで。あの、いわゆる一般的なファンタジー世界にわざと亀裂を入れるような展開が、やっぱりすごく気になったというのが第一のこと(まぁこれは、原作の絵本でもそのようになっているようですが)。


 そうして話の展開を反芻しているうちに、どうもこの作品が全体的に、すごくソフィスティケートされている、つまり都会的な感性で作られている事が、違和感の原因なんだという結論になりまして。


 たとえば西の魔女の城に行く過程で、脳がない(=知恵がない)ハズのカカシが、明らかに知恵の回った機転によって事態を打開していったり、また勇気が無いはずのライオンが勇気を見せたりしている事が描かれていますけれども。それを踏まえて、化けの皮のはがれたオズが、カカシやブリキ男やライオンに与えるのは、証書とか勲章とかなのでした。つまり「知恵も勇気も、自分で無いと思ってるほど実際に欠けているわけじゃない、ただそこで自信を持てるようなよすががあれば良いんだよ」っていうわけで……分かるけど、童話世界の出す答えにしちゃあまりに現代的だよね(笑)。なんか心理カウンセラーみたいじゃないですか、これ?w


 また、ドロシーは冒頭で東の魔女を結果的に殺し、またオズに言われて西の魔女のホウキを奪うため(これは実質殺さねば手に入らない事が劇中明言されますが)に城に出向きますし、実際ドロシーによって西の魔女は殺されるのですけれど、劇中で、一貫してドロシーの「殺意」は否定されるんですよね。あくまで、カカシに燃え移った火を消すために水をかけたら西の魔女にかかっちゃっただけで、「殺すつもりはなかった」とわざわざセリフでまで明言させている。
 それってつまり、西の魔女がどれほどの悪人であっても、「子供が見る童話の世界で、主人公が明確に相手を殺そうとするなんてよくない」という、極めて現代的な倫理問題に配慮されている事が明確です。うちのブログでたびたび話題にしている言い方で言えば、日本で1990年代『るろうに剣心』以降顕在化した、「不殺問題」ですね。
 たとえば、今私が読んでる『グリム童話』なんかで言えば、悪い魔女とか継母とかは当然のようにグロい殺され方をされるわけであり。『オズの魔法使』でこうした点に配慮がされているというのは、やはり明らかに感性が都会的なのでした。


 「大事なものは遠くへ取りに行くんじゃなくて、実は身近にあるんだよ」っていう結論めいたメッセージも、ある意味すごい都会的ですよねぇ。学校や会社がある現代人にとって、どんなに遠出してもせいぜい数週間から数か月、結局は社会生活の中に戻るしかないっていう現実に沿ったメッセージでもあるわけですよ。


 で、やっぱりそこが、違和感として引っかかるんですね、私みたいな人間には。こう、私の中の童心が不満を述べるわけです(笑)。未だに子供なもんで、「ファンタジーな世界は君の心の中にあるんだよ」じゃなくて、「ファンタジーな世界は、どこかは分からないけれど世界のどこかにきっとあるんだよ」って言ってもらいたいんだな(笑)。
不思議の国のアリス』も夢オチだけど、「お前が赤の王を夢見ていると思っているかも知れないが、逆に赤の王がお前を夢見ているのかもしれない、赤の王が目覚めたらお前は消えてしまうのかもしれないぞ」っていう逆襲もしてくるような、もっとアイデンティティを揺さぶってくる世界なわけです。それくらいの存在感というか、緊張感が異世界には欲しいんですよね。


 まぁそんなわけで、色々と述べましたが、そういう違和感の部分も含めて興味深く見た、といったところです。やはり一見はしておいてよかったと思えました。
 さてと、次は何を見ますかね……。