終っている臓器

 

終わっている臓器: もはや不要なのに存在する人体パーツ21の秘密

終わっている臓器: もはや不要なのに存在する人体パーツ21の秘密

 

  

 

 ちょっと息抜き読書。

 

 進化の過程でいらなくなってしまった、現在あまり使われていない臓器を紹介するというコンセプトで、雑学たっぷりで読んでいて楽しい本なわけですが。しかしそういうコンセプトのわりに、もうまったく無くても困らない、何の役にも立たないと結論されてる部位は案外少ない。むしろいらないと思われがちだけど意外に役に立っている、という記述もちらほら。

 盲腸なんていらない臓器といわれて思い浮かぶ筆頭なわけですが、最近の研究だと腸内における善玉菌が待機したり、腸内環境が変わった際に逃げ込んだりする前線基地として使われてるらしいことが分かってきたりしてて。むしろ終わっていない臓器の話なのでは? という趣。

 

 この辺はだから、「役に立つ」「役に立たない」という知見に対する一種の相対化なんですな。既存の知識で役に立たないと断定され捨てられてきたものが、新知見でいつ「実は役に立っていた」と判明するか分からんわけです。

 さらに、たとえば手の甲辺りにある長掌筋という筋肉があるそうですが、これは現在物を掴んだりする時にほとんど使用していない。なくても困らない。しかし、だからこそ、野球選手が肘靭帯を痛めたりした際にはこの長掌筋を移植することができるという。使ってないからこそ遠慮なく移植に利用できるのだそうで。

 これなんかは、「役に立っていないからこそ役に立つ」という逆説なわけですよね(笑)。そういうところまで目配りした時に、果たして「役に立たない」とは何なのか、ということになる。本書はその辺りにひっそりと思いを馳せるのにも役立つ内容で、なにげにけっこう深い本だと思います。