図説太田道灌 & 道灌紀行


図説 太田道潅―江戸東京を切り開いた悲劇の名将

図説 太田道潅―江戸東京を切り開いた悲劇の名将

道灌紀行―江戸城を築いた太田道灌

道灌紀行―江戸城を築いた太田道灌


「東京」をテーマに読書をしていると、わりと頻繁に目にするのにその詳しい事績は全く知らない、という人物に二人ほど行きあたりました。
 一人は平将門で、まぁ歴史の教科書に載っている程度の事は知っているものの、彼が具体的にでは関東で何をやったのかとなると、全然知らなかったりして。
 そしてもう一人が、この太田道灌だったのでした。江戸城を作った人という事で何度も名前を目にするのですが、じゃあ具体的にどんな時代に生きたどんな事をした人だったのか、というのは、もうほとんどまったく知らなかったという状態。
 かろうじて、「山吹の里」伝説だけは1〜2度読んだ事がありましたが。雨に降られた道灌が民家で蓑を所望すると、少女が出てきて黙って山吹の花を差し出す、意味がわからず怒って帰ると、実はそれが古い歌にある「七重八重 花は咲けども山吹の 実の(蓑)ひとつだになきぞ悲しき」の意味だと教えられて、自分の無知を恥じて歌に志すようになったというお話。
 まぁこれは、道灌の一番有名なエピソードではあるわけですが、この逸話だけ知っていても彼がどういう時代に生きたどういう人だったのかはさっぱり分からない(笑)。それで、この際だから一通りは押さえておこうかと思って、正月に関連書を買ってみたわけです。ちょうど運よくこの二冊が並んで平積みされていたので、まとめて。


 最初に読んだのは『図説太田道灌』。こちらは普通に学者の方が書かれた本で、カラー図版が多く、また最新の学説に詳しく。何より、史実と、後付けの伝説とを明確に線引きして述べている信頼性の高さが非常に参考になりました。
 次に読んだのが『道灌紀行』で、こちらは在野の方が書かれた、道灌関連の場所を片っぱしから訪ねて歩きつつ、道灌の生涯や伝説などを追っていく内容。
 まぁ、私はガッチガチの史学的視点よりは、どちらかというと伝奇的な視点でこういうものは眺める傾向があるので、どちらかといえば史実そのものよりは後付けの伝説の方に興味があったりもしまして。しかしもちろん史実と混同したまま理解していては恥をかきますから、結果的に最初の本で史実と伝説の線引きをしっかりしておいた上で、後者の比較的その辺の線引きの緩い本を、ゆったり鑑賞するという流れが丁度良かったというところです。
 実際、語りも丁寧で、周辺事情にまで踏み込んでくれるので、後者の本の方が道灌が「どういう時代に生きたどういう人だったのか」を実感としてつかむには適していると感じました。まぁそのかわり、やはり著者が道灌大好きな人らしく、「道灌の短所や気まずいところにはあまり目をやりたくない」というバイアスはところどころ感じましたが。そういうところは随時前者のニュートラルな記述で補完して読んで行きます(たとえば、道灌が継戦のために、前例のない民衆からの徴収なども結構やっていることが前者の本には書かれていますが、後者の本はその事には触れず、ただ「民生を良くした」という一言を掲げて褒め称えておしまいにしています)。
 結果的に、2冊の本のそれぞれの長所を引きこんで読めたので、やっぱりこういう勉強をする時は1冊きりじゃなく、複数の違う作者の本を集中して読んだ方が身になるなぁと、今さらな感慨にふけったりもする。



 私は感覚として、軍隊でもって攻め込んだり守ったりというのがあまり想像が及ばないという性質で、ですから今まで歴史分野に興味を持ってきたとは言っても主に文化史方面で、普通の歴史好きなら常識だろう戦国武将についての知識などもまるでからっきしだったりするわけで。
 そういう意味では、太田道灌をめぐる時代背景というのもなかなか掴みにくい感じはあったわけですが。
 まあしかし、2冊続けて関連書を読んだことで、どうにかそれなりにつかめたかな、という気はします。
 実は、2冊とも江戸城と江戸(東京)について直接書かれている場所は結構少なくて。というのも、道灌は江戸城を作りましたが、その本人は当時の関東地方の争乱で常に先頭に立って戦い、関東中を転戦し続けていたので、江戸城にいた期間はあまり長くないのですね。信用できる味方の将を置いておいて、本人はあちこちへ出向いては敵と戦っていたと。
 それもまた、30戦以上にわたって連戦連勝、負け知らずだったとのこと。そんな凄い事があるんだなぁ……(ただしこれも、史料としての「太田道灌状」が正確だったと前提すれば、なのかも知れませんが)。しかしそうして勝ち続ける中で存在感が増し、むしろ大きくなりすぎた事が主である上杉定正に疎まれたのかどうなのか、結局主の手にかかり暗殺されるのでした。


 アウトラインはそんなところで。私の方で、この前後の時代の関東地方の歴史というのもそこまで詳しくないので、現状他の知識とスイッチする事がなかったりはしますが。
 しかし後者の『道灌紀行』からは、いろいろと面白い話が採集できて、これは面白かったです。日比谷や日暮里、吉祥寺の知名の由来なんかもついでに知る事が出来て、なかなか楽しく。


 現状は東京都内に限っている私のお散歩企画「東京彷徨」ですが、こういう本を読んでいると東京の外にも行ってみたくなるなぁ。いつか機会があったら行ってみよう、とか思ったりしたのでした。
 やっぱり、自分の足で歩いてみないとわからんし。実を言えば私、つい最近まで「金沢文庫」って石川県にあると思ってたからね!(ダメじゃん
 戦国時代の攻めた守ったが分からないのも明らかに地理音痴が理由の一つ。やはりその辺もっと補強しておかないといけません。


 そんなわけで。
 とりあえず太田道灌について知りたいという人がもしいるなら、今回掲げた二冊を続けて読んでおけばアウトラインは大体つかめると思うのでそこそこお勧めです。発行年月日も最近なので、安心して読めますし。
 さて、私はとりあえず道灌についてはこれで一旦切りあげる事にしましょう。時代的に見るなら、北条早雲の事も多少は調べてみても面白いのかなという気もしますが、優先順位で言うと少し後かな。そんなわけで。
 あぁ……次は将門だ……。