機動戦士ガンダムAGE 第5話「魔少年」

     ▼あらすじ


 コロニー「ファーデーン」に入港したディーヴァ。グルーデックには、艦長を騙りディーヴァを私的に使用した嫌疑で拘束命令が出ていたが、担当官の弱みを握っていたグルーデックはこれを退ける。そして、一部始終を見ていたエミリーに詰め寄られると、その本来の意図を明かすのだった。即ち、UEの拠点を叩くのが目的だと。
 一方、ファーデーン内でデシルと名乗る少年と出会ったフリット。ノーラでの戦闘でユリンに感じたのと同じ感覚に戸惑う中、デシルにガンダムを奪われてしまう。圧倒的な操縦技能でUEを撃退して見せたデシルは、不穏な表情と共にAGEデバイスフリットへ返して寄越すのだった。


      ▼見どころ


   ▽ウルフについて補足



 前回の記事で、「ウルフはその後ガンダムを寄越せと一度も言わない」的な事を書いたのですが、直後のこの回にズバリそういうセリフがあったので、お詫びして訂正します(←アバウトな記憶を元に書いてるからこうなる
 もっとも、「お前が戦わないなら、その時は俺がガンダムをいただく」という趣旨の発言で、フリットガンダムに乗り続けると言った後は表情を明るくして「そう来なくっちゃな!」と応じているところから、どちらかというとフリットを焚き付ける目的の発言っぽい感触はありますが……。



 この、ファーデーン入港前のフリットとウルフのやり取りは、二人の戦いに対する姿勢の違いがよく出ていて面白い部分です。
 ウルフは当初、戦いについて「一度あの興奮を覚えちまうと、日常じゃ満足できない体になっちまう」と、そのスリルを楽しむ感覚を表明した上で、フリットに同意を求めます。しかし、フリットが否定すると、今度は「ならガンダムには俺が乗る」という形でフリットガンダムへの執着をエサに自分の話に乗せ、戦い続けるという宣言をフリットから引き出す事に成功するのでした。
 このシーンの誘導尋問ぶりを冷静に観察すると、ウルフが戦友、あるいはライバルとしてのフリットを率直に欲している事がよく見て取れます。



 そして、このウルフの言動は一貫して自身の快楽至上主義でもあります。デシルがガンダムで出撃してしまい、フリットジェノアスで後を追うのを見て、出てきたセリフがこうです。



ガンダムを奪われて熱くなってやがるな……よぉし、俺も!」


 現時点で明らかにディーヴァの持つ最大の戦力であるガンダム、それが奪取されたという由々しい事態なのですが、この人は驚いたり、怒ったり、焦ったり全然していません。もちろん、フリットの不注意を責めたりもしません。むしろ熱くなってるフリットを見て面白がっている節があります。
 挙句、デシルの敵機撃墜を見て、「どこのどいつか知らねぇが、やってくれるじゃねぇか!」と率直な賛辞を贈ります。
 ウルフ・エニアクルという人は万事こんな調子で、スリリングな戦闘体験が出来るなら細かい事には構わない、というお方なのでした。
 よくこんな事で軍人が務まるなぁ、とも思うのですが(笑)、しかしウルフのこういう性格が、結果的にディーヴァクルーが一つにまとまる上で重要な柱になっていくのでした。



   ▽エミリーとグルーデック


 一方、フリットが戦い続ける意志を示したことで逆に戸惑っているのが、エミリー・アモンドです。



 フリットの決意を聞いてどん底気分のエミリーさん。


 前の話から、この後しばらく、エミリーさんはフリットガンダムから降ろすべく奮闘する事になります。彼女は一貫してノーラの時からフリットの身を案じていたのですが、その余りとんでもない度胸を見せたりもする危なっかしい一面もあります。ノーラで一般民と避難せずにディーヴァに勝手に乗り込んだり、そして……



 グルーデック艦長に突撃してみたり。
 結果的にグルーデックの裏工作や暗躍をほとんどすべて目にする事になったエミリーは、フリットよりはかえってグルーデックとの絡みで物語の本筋に関わっていく事になるわけですが。
 それにしても、直接グルーデックの部屋に乗り込むクソ度胸に、見ている視聴者の方が肝を冷やす展開です。これで本当にグルーデックが悪人だったらどうするつもりだったのでしょうか。
 結果オーライ的に、グルーデック艦長はエミリーをどうこうするつもりはなく。むしろ本心を打ち明けてくれたりするわけでした。もっとも、フリット個人の身の安全を心配するエミリーとは話が噛み合わないまま終わります。それにしても、ここで他のディーヴァクルーを差し置いて、いち早くエミリーに本来の目的を話すグルーデック艦長の意図がどこにあったのか、イマイチ視聴者に伝わりにくいシーンです。
 後に、グルーデックがディーヴァクルーにこのUE駆逐の意図を伝えた際のやり取りを踏まえると、おそらくあまり早い段階でクルー達に真相を伝えて、連邦側に密告等されて拘束されてしまう結末を恐れていたのかも知れません。特に、ファーデーンにはしばらく停泊している予定なので。
 また、ここで連邦軍にはUEに対抗する意思がない事が示されます。グルーデック艦長は端的に「今の連邦軍は腐りきっている」からだと言いますが……推測するに、これは連邦軍や政府が無気力だからといった意味ではなく、端的に、対抗できない相手だから見て見ぬふりをしているのかなと。
 既に作中で示された通り、フリットガンダムによる撃墜が、「人類が初めてUEを撃破した」事例です。つまり作中のこの時点で、他に誰もUEを倒せた者がいないわけであり。仮に連邦軍を大量動員しても、UE相手にまったく有効な打撃を与えられない可能性が高い事になります。もし連邦軍が総力を挙げてUEに戦いを仕掛けて敗北してしまったなら、もはや人類にはUEに対抗する手段が存在しない(UEに屈服するしかない)と敵味方に示してしまう事になります。なので、手を出せないのでしょう。
 もし、連邦軍が動かない理由が上記の通りなら、これは合理的と言えます。私が連邦軍のトップでも同じ判断をします。勝算のない戦いなら、しない方がマシだからです。


 そして、そうであればこそ、後にフリット・アスノ連邦軍内での存在感が天井知らずに高くなるわけです。



   ▽ニュータイプとXラウンダー(1)


 作中ではまだ名称が出て来ていませんが、この『ガンダムAGE』において、先にユリンが示したような能力を持つ者の事を「Xラウンダー」と言います。
 そしてこの回で、フリットはデシルに対して、かつてユリンに感じたのと同じ何かを感知して戸惑う事になります。これは、デシルの戦闘に対してウルフが「まるで次にどこから攻撃されるのか分かってるような戦いぶりだぜ」と評したように、宇宙世紀におけるニュータイプの能力に近い物として描写されています。
 ついでに言えば、この回のデシルは、ファーストガンダムアムロ・レイが見せた(ゲームなんかでもおなじみの)背面撃ちをさりげなくやって見せたりもしています。




 上:アムロ  下:デシル


 しかし、では、ガンダムAGEにおける「Xラウンダー」の能力が、宇宙世紀作品におけるニュータイプと全く変わらない、同じ能力として描写されているのかといえば、これは明確に違います。この第5話の時点でも既に、明確な相違点が見られます。どこだと思いますか?


 ガンダムAGEにおいて、フリットがユリンやデシルの能力を感じたシーンには、いずれも下掲のようなカットが入ります。




 手と手が重なる、もしくは触れる


 一方、宇宙世紀ガンダムにおいて、ニュータイプと出会ったり、相手のニュータイプ能力を感じたりするシーンを思い浮かべてみましょう。とりあえず代表として以下。



 アムロララァの邂逅シーン(ファーストガンダム



 ジュドーたちがカミーユニュータイプ的な思念を感知するシーン(ガンダムZZ)


 私も宇宙世紀ガンダムのテレビシリーズを見たのは5年以上前ですので、あるいは失念しているシーンがあるかも知れませんが。少なくとも私が思い出せる限りで、接触れ合う事によって相手のニュータイプ能力を感じる、といったシーンは宇宙世紀ガンダム作品にはほとんど無かったハズです。
 アムロララァなんて、下手したら物理的にはまったく相手に触れていないんじゃないでしょうか。


 ニュータイプの描写において、相手と直接触れ合わなくとも相手を感じられる表現になっているのは、設定と照らし合わせれば極めて理にかなっています。ニュータイプというのは、「広大な宇宙空間に適応した人類」の事だとされているからです。



 宇宙空間は過酷な環境で、周囲を真空に囲まれており、さらに各コロニーやサイド間の距離も数万キロ単位で隔たっています。真空中は音も温度も(象徴的に言えば人のぬくもりも)伝わりません。
 ニュータイプが認識力を高め、離れた相手と意思疎通ができたりするのは、こうした宇宙空間に適応したからである、というのが理由づけになっているのです。したがって、直接触れ合わなければ感じあえないというのでは、能力的に割に合いません。リック・ディアスに乗ったクワトロがコロニー内のカミーユを感じたり、ガンダムアムロが接敵前にララァエルメスを感知したり、というのがニュータイプの能力です。


 だとすると。
ガンダムAGE』における、一見ニュータイプに似た能力(Xラウンダーの能力)というのは、「宇宙空間に適応」したから発現したのではないのでしょうか? 少なくとも物語の序盤において、Xラウンダー能力の描かれ方にはニュータイプのそれとは明確な差が見られます。
 「ニュータイプ」と「Xラウンダー」を単に似たものとして同一視せず、その差異を丁寧に見ていく事にはどうやらそれなりの重要性がありそうです。
 次にこの話題が登場するのは第12話。作中に「Xラウンダー」という言葉が登場した時です。



   ▽デシルとフリット



 この回のメインである幼い少年、デシル。明らかに今後のキーになりそうな謎めいた描かれ方をしています。
 ユリンに似た能力を有していることがほのめかされ、さらにUEを立て続けに撃破してウルフやバルガスをも感心させています。
 そしてこの回の最後、謎の覆面集団に「エデンの民」と言われたりしているのですが……。


 この辺のあからさまな伏線はまぁ、おいおい明かされる事ですので置いておいて。
 個人的に拾っておきたいのは、デシルを見たバルガスの以下のコメントです。



「どことなくお前さんと雰囲気が似とるのぅ」


 デシルとフリットが似ている?
 これがどういう意味かは、この時点では何とも特定できません。幼少時のフリットと外見や行動が似ているのか、もしくは能力や資質が似ているという意味か。恐らくバルガス本人は、特に深い意味もなく言っただけのセリフではあると思います。
 しかし、後々の事を考えると、これも別な意味の暗示だったようにも見えます。フリット編が終わる辺りで、もう一度考えてみたいと思います。


 デシルといえば、この回で以下のようにも言っていました。



「ぼくね、宇宙を漂流してた旅客船の、たった一人生き残った赤ん坊だったんだって」


 アセム編以降の展開を見た方は、この発言、どう思われますか?(笑)
 ありえない話ではないとは思いますが、正体を知られないためのウソのようにも思えます。筆者としてはどちらとも判断がつかないので、もう一度この後の展開を追いながら、気づいたことがあったらまた言及してみたいと思います。


 そんなところで。
 次回、いよいよ、あの人とあの名セリフが登場します。お楽しみに。





『機動戦士ガンダムAGE』各話解説目次